〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第38回 MARUZOHくんと誘拐犯ヒムラー
「タ、タカシくん!」
振り向いたMARUZOHくんが歓喜の声を上げました。タカシくんが駆け寄ってきます。
「MARUZOHさん、元気だった?」
「そ、そりゃあ、僕の台詞だろ・・・
タカシくん、怪我はないかい?
奴らに、手荒な真似はされなかったかい?」
MARUZOHくんは片膝をついて、タカシくんをギュッと抱きしめました。
「大丈夫だよ。
ゲッベルスのおじさんとタケル兄ちゃんのお父さんが、
ずっと僕のこと守ってくれてたんだよ」
「タケルくんのお父さんって、
ひ、火村が?」
MARUZOHくんは、ヒムラーの顔を怪訝な顔をして睨みつけています。そりゃあそうです。王国の文部副大臣のモンタージュによって、千年帝国の手先、つまり卑劣な誘拐犯は地質調査技師を装った火村だと判明して、MARUZOHくんらココロニア大船団は、ガルル皇帝と火村憎しの一念でここまで来たのです。ところが、その火村がタカシくんを帝国から守り、そして今、自分を助けに来ているのです。
「MARUZOHさん・・・」
それを察したヒムラーが、親衛隊から奪ったライフルを身構えながらMARUZOHくんに言いました。
「わ、私が犯してしまった罪は、
どれだけ謝罪したところで償いきれるものでないことは、
私も十分承知しております・・・
そして、こんな私を、あなたが信用できないということも、
分かっています・・・
し、しかし・・・」
泣きそうな顔のゲッベルスが、MARUZOHくんたちとガルル皇帝の間に割って入りました。
「虫のいい話かもしれません。
でも、ここは私たちを、信じてください!」
そう叫ぶとゲッベルスは、ガルル皇帝らの頭上に向かって何かを放り投げました。
ターンッ!
乾いた銃声が響き、皇帝の頭の上3メートル程のところでお徳用の胡椒のビンが破裂しました。
「ふぇ・・ くしゃん」
「ひぇ・・ くしょん」
「はひはひ・・・ くしゃん」
「くしょん くしょん くしょん」
飛び散った胡椒を頭からかぶってガルル皇帝や親衛隊は大騒ぎです。
「MARUZOHさん!
広い甲板は多勢に無勢、私たちには不利です。
私にちょっとした考えがあります。
船内へ逃げ込みましょう!」
ヒムラーの言葉にMARUZOHくんは一瞬だけ躊躇しましたが、すぐにこっくりと頷きました。階段に向かって走り出したヒムラーの後ろ、MARUZOHくんは走りながら言いました。
「ヒムラーさん。
ココロニア王国の独立戦争の時、
国王である父はこう言ったんですよ。
『人間と言うのは、劇的に変われるんだ』と・・・
そして、それを教えてくれたのは、誰あろう、
この・・・、小さなタカシくんだったんですよ」
《つづく》
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