〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第36回 タカシくんの決意
時間は、ほんの少しばかり・・、ココロニア号がバリアを破る直前まで遡ります。
カン カン カン カン カン カン・・・・・
さっきは抜き足差し足で昇ってきた鋼鉄製の階段でしたが、今度はヒムラー、タカシくん、ゲッベルスの3人が、息を切らせて一目散に駆け下りていきます。
さっきの大きな揺れとガルル皇帝の放送以来、艦内はてんやわんやの大騒ぎで、みんなが非常体制を取っているのでしょう。それぞれが特別な持ち場に就いているらしく、階段や廊下にはほとんど人がいないのです。その隙を突いてタカシくんら3人は、甲板に向かって猛ダッシュをしていたのでした。
「タカシくん、足は大丈夫か?」
「はあはあ・・・、だ、大丈夫・・・」
「ヒ、ヒムラー。
ちょっとは休んだ方が、いいんじゃないのか?
足への負担は、下りの方が相当きついはずだぞ。
タカシくんが心配だ・・・」
「うむ、確かに俺も膝ががくがくしてきたみたいだ・・・
よし!」
ゲッベルスの言葉に頷くとヒムラーは、徐々にスピードを緩め始めました。そして、窓のある階段の踊場を見つけると、右手で後の二人に合図をしてゆっくりと止まりました。どうやら この踊り場で一休みのようです。
3階と4階の中間位の高さでしょうか?ここなら甲板の様子も良く見えるに違いありません。ヒムラーは、階段に腰掛けて、早速丸い明り取りの窓から外を伺ってみました。
「ええっ?」
外の景色を見た瞬間、ヒムラーは、我が目を疑って思わず叫んでしまいました。
「な、何をする気だ、ココロニア号!
気でも違ったか?」
目を丸くして叫ぶヒムラーの声に、タカシくんとゲッベルスが一瞬顔を見合わせてから、ヒムラーを押しやるようにして丸い窓に割り込みました。
「ひっ!」「な・・・」「あわわ・・・」
なんと!その小さな窓から顔をくっつけあった3人が見たのは、山のような巡洋艦に真っ正面から突っ込んでいく猛スピードのココロニア号でした。
「お、お父さんがぁ!」
「い、いかんっ!やめるんだ!」
「あわわわわ・・・」
正面衝突!・・だと、思って、タカシくんは両の手で目を塞いでしまいました。次の瞬間聞こえてきたのは、ガリガリガリッ!という激しく金属のこすれる音です。
「・・・・・・・・・・」
「こ、こいつは、すげえ・・・」
「あわわ・・・ まさに紙一重・・・」
いったいココロニア号に何が起きたのでしょう?
ヒムラーとゲッベルスの歓喜の声に、タカシくんは指の隙間を広げて恐る恐る外の様子を見てみました。
ココロニア号は、かなり弾き飛ばされて船腹に大きな傷を負ってはいましたが、ヤジロベエのように左右に大きく振られながらも巡洋艦のバリアの内側に滑り込んで、この母艦めがけて白煙と共に向かって来ています。タカシくんの顔がぱあっと明るく輝きました。
「す、すごいや!
玄さんも、お父さんも、本当にすごいや!」
ヤジロベエのような横揺れが収まると、それまで蛇行しかできなかったココロニア号も、ようやくまっすぐ進めるようになって、操舵室が見える位にまで母艦に近づいてきました。
「あっ!お父さんだ!お父さんだ!
玄さんも・・・
あっ!MARUZOHさんもいる!」
タカシくんが丸い窓にかじりついて叫びました。その時です。母艦に据え付けられたラッパ型のスピーカーから猛獣のような声が大音響で響き渡りました。
「貴様は、熱田の息子のMARUZOHだな?」
ご存知、ガルル皇帝です。この後、ガルル皇帝がタカシくんの宝物を持ってくるのを条件にタカシくんを解放するとMARUZOHくんら3人告げ、それに応じたMARUZOHくんを迎えに小舟がココロニア号に向かったことは、皆さんも既にご存知の通りです。ヒムラーが苦虫を噛み潰したような顔で言いました。
「何が乗船許可だ、聞いて呆れるぜ。
タカシくんに逃げられたものだから
体よく人質をまた1人確保しやがった。
しかも、その人質を国王の息子にするとは・・・」
ゲッベルスも口をへの字にして腕を組んでいます。
「抜け目のないのは相変わらずだな・・・
しかし、この状況は何とかしないといかんぞ。
結局はヤツの思惑通りに ことが進んでしまっている」
うんうんと唸っている大人2人の間で、タカシくんがぴょんと立ち上がって言いました。
「MARUZOHさんを、助けに行こうよ!
このままじゃMARUZOHさん、
きっと僕らが入れられてたあの檻に入れられちゃうよぉ!」
《つづく》
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