〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第34回 突入!ココロニア号
反時計回りに高速で回転する千年帝国が誇る4隻の巡洋艦。70メートルはあろうかというその半径の更に外をココロニア号は時計回りに、つまり巡洋艦とは全くの逆回転で、エンジン音もけたたましく疾走を始めました。
「MARUZOHくんも、執事長も、しっかり掴まってろよ!
振り落とされたら母艦につく前にお陀仏だぞ!
それとあんまり喋るな、舌噛んじまうからな」
反対向きの巡洋艦の4隻分の横波が、ココロニア号の正面から次から次に襲いかかります。休まずにやってくるその三角形の波頭を玄さんは見事な舵さばきで、まるでココロニア号にバタフライでもさせているみたいに弾むようにして飛び超えてゆきます。
MARUZOHくんと執事長は、頭を天井にぶっつけては首を引っ込め、そして次の瞬間にはお尻を椅子にひどく打ちつけるというのを何十回となく繰り返しながら、ものすごい勢いですれ違っていく巡洋艦を横目にすっかり肝を冷やしてしまっています。
「げ、玄さん、この船・・大丈・・夫?
ココロニ・・ア号は・・
モーター・・ボートじゃ・・ないんだ・・からさ」
舌をかまないように気をつけながらやっとのことでそう言ったMARUZOHくんに、玄さんは正面に迫る波を睨みつけたまま言いました。
「何言ってやがんでい。
これでも侵入スピードが足りないくらいだよ。
ほら、ココロニア号!
お前もタカシくんのために 意地見せてみろや!」
玄さんは、まだまだスピードを出そうとしてガツンとこぶしでタコメーターを叩くと、めいっぱいの向こうまでスロットルを押し込みました。
ガガガガガガガガガ・・・・
おや?なんと、エンジンの辺りから白い煙が出始めました。
「玄さん、な、なんか焦げ臭いよ」
「ああ、わかってるって。
エンジンの出力を限界超えてまで出させてんだ。
エンジンが焼きつく前に突入するぞ!」
執事長が、汗でびっしょり・・、いえ、冷や汗びっしょりの顔で尋ねます。
「でも・・、こんだけ飛び・・跳ねた・・状態での操舵、
だ・・大丈夫なん・・ですか?」
「やるしかねえって言ったのは、
執事長、あんただぜ!
人事を尽くして、天命を待つってな。
今、俺が言えることは、それだけだっ!」
玄さんの言葉を、二人が噛みしめるように繰り返します。
「人事を尽くして・・・」
「天命を、待つ・・・」
いよいよ白煙が激しくなってきました。
「もう限界だっ、行くぞっ!」
ココロニア号は更にスピードを上げながらその円周を徐々に縮めて、巡洋艦の円周のほんの僅か外を進みます。巡洋艦に近づくと言うことは、受ける横波も強くなると言うことです。ココロニア号は、もうほとんど水面をバウンドしながらトビウオのように進んでいました。それと同時に3人の体が大きく上下して、その上下動と同調するように3人の心臓の鼓動もどんどんと高鳴っていきました。
反対周りの巡洋艦を正面からかわすタイミングは、たったの一瞬。少しでも遅ければ巡洋艦と正面衝突。ちっぽけなこの船は、木っ端微塵です。では、逆に早ければどうかと言いますとココロニア号は前の巡洋艦の横波に煽られて正面に押し戻されてしまうでしょうから、やはり正面衝突は避けられません。そして、同じく木っ端微塵です。
そしてついに、勝負をかけるその一瞬が訪れました。
「よおしっ!突っ込むぞ!」
「うおおぉぉぉぉぉぉっ!」
「うおおおぉぉぉぉぅっ!」
玄さんが叫んで、二人がそれに応えます。
目の前には山のような巡洋艦が猛烈なスピードで迫ってきます。
狙うは、巡洋艦の舳先の右、一点のみ!
突入っ!
ガリガリガリッ!
金属が激しくこすれる音がしてきな臭いにおいがしたと思うと、ココロニア号が右側に大きく吹っ飛びました。横向きのエレベーターに乗った気持ちです。
ザザザザーン
次の瞬間、ココロニア号は横腹をうねった波に叩きつけられて、今度は振り子のように逆に揺られました。
「うわああぁぁぁぁぁぁ・・・」
その反動で放り出されそうになった執事長の右足にMARUZOHくんが必死にしがみついて、やっとのことで船内に引きずり戻します。ヤジロベエのように左右に大きく振られた船体を玄さんが懸命の操舵で立て直しました。
やりました!成功です!
ギリギリでバリアを突破したのです。左舷脇腹に大きな傷を受けながらも巡洋艦の内向きの横波に押されるようにして、ココロニア号は白い煙を吐きながら千年帝国母艦に蛇行しながら近づいていきます。
「見たか、こんちくしょうめ・・・
ココロニア号、ようく辛抱したな。
よくやったぞ・・・」
玄さんがしぶきに濡れた顔を拭って、タコメーターをやさしくなでました。
《つづく》
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