〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第29回 おじさんって・・
「おじさんって・・・」
最上階の窓から差し込む日差しに、タカシくんの眼があまりにキラキラと輝いていたものですから、ガルル皇帝は不思議と気圧されてしまうような、そんな気がしていました。
「皇帝をつかまえて、おじさんだと?
確かに我輩は、年齢的にはおじさんに相違ないが・・
まあ、ここは許そう・・・
で、小僧、我輩がどうした?」
どうやらガルル皇帝も「おじさんって・・」の次が気になると見えます。
「うん、おじさんってね・・・
泣いたりすることって、あるの?」
「はぁ?我輩が・・?泣く・・?
ぷっ、くくくく・・・
ふはは、ふははははは。
わっはっはっはっは・・・」
タカシくんの質問を聞いて、ガルル皇帝は大声で笑い出してしまいました。ゲッベルスも、ヒムラーも、このタカシくんの質問には拍子抜けしてしまったようで、顔を見合わせて苦笑いをしています。
「言うに事欠いて、我輩が泣くかだと?
ふは、ふはははははは・・・
さ、さすが無能の民の子だ。
いったい何を言わんとしているのかさっぱりわからん」
タカシくんはもじもじしながらガルル皇帝にこう応えました。
「ココロニアの王様が言ってたんだ。
人間っていうのはね、
こころの器から溢れ出した感情が涙や笑顔になるって。
そしてそれはね、
人間にとって一番大事な感動を生むためのものなんだって。
でも、さっきから見ているけど、
ガルルのおじさんの笑顔って、ちっとも楽しそうに見えないし、
とっても感情が溢れ出した笑顔には見えないんだもの・・」
「・・・・・・・・・・」
ガルル皇帝は、ほんの一瞬だけ視線を足元に落としました。タカシくんの言葉に感ずるところがあったのでしょうか?
しかし、その後すぐに見上げた時のくわっと見開かれたガルル皇帝の眼は、やはり先程までの血走った猛獣のような眼のままでした。
「おい!聞いたかゲッベルス!
こんな小僧までが、ココロニアのロマンチストに感化されて、
一文にもならない、こんな青臭いことをほざいとるのだ。
これを洗脳と言わずして、なんと言う?
千年帝国とココロニアを治める我輩と熱田。
2人のいったいどこが違うと言うんだ?
ええ?どうだ、応えてみろ!」
ガルル皇帝の咆哮が部屋に響き渡ったその時、ブルッと震えたゲッペルスは皇帝の肩越しの窓、水平線から黒い点が微かに現れるのを確かに見ました。あれは、何でしょう。船です。船団です。間違いありません。ココロニアの大船団です。
《つづく》
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