〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第26回 ココロニア大船団
「北北西に進路をとれ!」
王様は格好よく叫びましたが、ココロニア王国の所有する船舶は、ココロニア号とスモールオータム号の2隻だけです。それもその2隻とも、名前こそ格好良いのですが、島の自給自足を支える漁船で、しかも、かなりのおんぼろときています。
MARUZOHくんたちを乗せた2隻の船は、真っ白い航跡を残して、今、港を離れていきました。でも、誰がどう考えたって、こんな魚船が2隻ぽっち出帆したところで、あの千年帝国の母船と4隻の巡洋艦に太刀打ちできるとは、到底思えません。大体漁船が、武器なんか積んでいるわけないんですから・・
それでもMARUZOHくんたちは、勝ち目がなくっても、全く歯が立たなくっても、出帆せずにはいられません。タカシくんの場所がようやく分かった今、誰もが居ても立ってもいられなかったんです。
天気はまさに快晴。真っ青な海と空、丸い水平線の中、ポツンとあった王国の島影が、消えて見えなくなりました。
と、その時突然、操舵室から身を乗り出している執事長の脇の無線機が、大きな声で執事長に話しかけ始めました。
「宇田川ぁ、お前、水臭いのう。
こちらは、本島の第三幸福丸じゃ。
タカシの救出に行くんなら、わしも連れて行けぇ!」
執事長はびっくりして頭を引っ込めると無線機に向かって言いました。
「そ、その声は、お、お義父さん・・・」
「後ろじゃ、後ろっ!
ふぉっふぉっふぉっ・・・」
執事長が後ろを振り返ると、なんとそこには、10隻・・・、いや、20隻はゆうにいるでしょう。ココロニアの本島の漁船のほとんどが、ココロニア号たちを追いかけてきています。
執事長の義理のお父さん、つまりタカシくんのお祖父ちゃんは、
「わしゃあ、今でこそ漁協の組合長なんぞの
ソロバンはじくような仕事をさせられとるがのう。
本来は、根っからの海の男よ。
久々の海じゃ、血が騒ぐわい!」
そう、タカシくんのお祖父ちゃんは、あの夕焼けの校庭でタカシくんの歌に涙した元長老の1人、漁協の組合長さんです。その組合長の大号令の下、本島の船という船が集結してタカシくんの救出を手助けしようとしてくれているのです。
「お義父さん・・・」
執事長の言葉を遮るようにお祖父ちゃんの無線は続きました。
「宇田川・・・
こんな時に、なんじゃがのう・・
やっと・・・、やっとお前さんら王国の連中に
お詫びというか、恩返しというか・・・
独立の時の埋め合わせをする機会がやっと訪れてくれた。
わしはなぁ、そんな気がしとるんじゃ。
これは、わしだけの気持ちじゃない。
本島々民みんなが、思っていたことじゃ・・・」
「・・・・・・・」
無線機を見つめる執事長の肩をMARUZOHくんがポンポンと叩きました。
「よしっ、湿っぽい話は、ここまでじゃっ!
ココロニア号を先頭に、船団を組むぞぅ!
みなの衆、わしらに続くんじゃ!」
お祖父ちゃんの声に合わせて各々の漁船が操舵室の左側の窓から身を乗り出すと、一斉に何度も左手を突き上げました。勇壮。みんな勇敢な海の男たちです。
執事長とMARUZOHくんは、それを見て上気した顔を見合わせると、にっこり笑って負けじと何度も、そう、何度も拳を突き上げ続けました
20数隻にも及ぶココロニア大船団が、夥しい数の航跡を青い海原に描きながら力強く北北西に進んで行きます。
《つづく》
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