〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第23回 赤い地球作戦
カンカンカンカンカン・・・・
乾いた靴音が鋼鉄の階段を押し上げるように追ってきます。その音を避けるように体を揺すりながら、タカシくんたちもモモアゲみたいにして階段を一段抜きで駆け上がってゆきます。
「待て――っ!」
「無駄な抵抗はやめろ!」
2組の靴音の隙間を、野太い声が埋めていきます。
「ヒ、ヒムラー!も、もう息が続かん・・・
足も・・上がらん・・・・
このま・・まじゃ、い・・ずれ捕ま・・るぞ・・・」
ゲッベルスが、絶え絶えの情けない声でヒムラーに言いました。体育会系っぽいヒムラーに比べて、なるほどゲッベルスは、まさに文化系でした。
「タカシくんは、大丈夫か?」
「だ、大丈夫!
タケル兄ちゃんに、毎日放課後、鍛えられてる、からね」
タカシくんは、めいっぱい無理をしてそう叫びましたが、目に見えて速度は落ちていますし、足も思ったほど上がっていないようです。ヒムラーには、まだ余裕がありそうでしたが、振り向いてタカシくんとゲッベルスを見ると、こう言いました。
「次の階、ドアを右に進むぞ。
作戦コードナンバーワン、『赤い地球』だ。
タカシくん、頼んだぞ!」
「ラ、ラジャーッ!」
タカシくんは、さっきヒムラーから赤い缶を手渡された際言われたとおり、輪っかのついた紐の先に手を掛けました。そして3人は、顎に掛けてあったマスクをグッと引き上げたのです。
ダダダッ
「あたたたたた・・・」
7階。階段の最後の段に蹴躓いてゲッベルスが膝から崩れ落ちてしまいました。膝が完全に笑っています。
カンカンカンカンカン・・・・
鋼鉄の階段の隙間から親衛隊の面々が、鬼のような表情で迫ってきているのが途切れ途切れに見えました。ゲッペルスの右手をヒムラーが引っ張って3人は通路を奥に進んでいきましたが、なんとそこは、完全な行き止まりです。まさに、絶体絶命・・・・
ところが、ヒムラーは至って冷静です。鋼鉄の壁を背中にして、なにかつぶやいています。
「8・7・6・5・・・」
親衛隊は、さっきゲッベルスが蹴躓いた階段を苦もなく乗り切って、怒涛の如く3人に向かって来ました。
「4・3・2・1・・・」
親衛隊の一番手がヒムラーに襲い掛かりました。
「き、貴様は、諜報部のヒムラー。
貴様までもが・・・
覚悟しろ、この裏切り者めが!」
ヒムラーは、それを寸でのところでかわすと、叫びました。
「タカシくん、今だっ!」
タカシくんは、人差し指に引っ掛けた輪っかを、目をつぶって思い切り引っ張りました。
プシュウウゥゥゥゥゥ――ッ
濛々たる白煙が湧き上がって、親衛隊の行く手は真っ白な闇に包まれてゆきます。その上、7階までいっきに駆け上がってきたのです。
ゲ、ゲホン ゲホホン ゲホン ゲゲ・・ホン・・・
マスクをつけた3人と違い、白煙を思い切り吸い込んだ彼らは、咳が止まらず、思うように動けなくなってしまいました。3人は苦しそうな大男たちを難なくすり抜けて階段に戻っていきました。
「よしっ、上出来だ!
今のうちに最上階、10階へ向かうぞ!」
「おおーっ!」
ヒムラーの声にタカシくんが気勢を上げます。ゲッベルスは、苦笑しながら言いました。
「ヒムラー、赤い地球作戦って、ちょっとセンスがないなぁ。
だって、商品名、直訳じゃないか・・・・」
「そうか、センスないか。」
ふふ・・ははははは・・・」
ヒムラーが、初めて笑いました。
《つづく》
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