〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第16回 ダクトへ!
(出たら左、突き当たったら右、左のダクト・・・)
タカシくんは何度も自分の頭の中で、ゲッベルスから教わった脱出ルートを繰り返しました。牢を出て左に駆け出したのですから、次はT字路があるはずで、そしたら今度は右に曲がるのです。
(突き当たったら右、突き当たったら右・・)
タカシくんは、鋼鉄の狭い通路を足音をパタパタ言わせて全速力で駆け続けました。そのズックの足音の数十メートル後を親衛隊の大男の尖った革製ブーツの足音が、カカンカカンとどこまでも追いかけてきます。
「このガキが!待ちやがれぇ!」
カンカンではなくて、大男のカカンカカンという足音は、足を引きずっているのでそんな音がするのです。タカシくんが思い切り蹴り上げた向こう脛が、まだよほど痛いと見えます。でなければ、子供と大人、普通ならとっくに追いつかれて捕まっていても何の不思議もありません。
ドキドキドキドキドキ・・・
はあ はあ はあ はあ・・・
タカシくんの心臓は、緊張と駆け続けたせいで、もう破裂しそうなほど高鳴って、息は荒く、喘ぐようになっていました。タカシくんは、少し不安になってきました。だってこの船、タカシくんの想像していた以上に相当に大きいんですもの・・・
(ど、どこまで走ればいいんだろ?)
と、その時、正面に通路の照明灯が見えました。
ついにありました!いよいよ突き当りです。
(突き当たったら右、突き当たったら右・・)
タカシくんはまた呪文を唱えるように例の言葉を繰り返して、直角の角を右にターンしました。後は、左の壁に注意を払って進めば空調用のダクトの入口があるはずです。
(左にダクト、左にダクト・・)
30メートルほど走ったところで、荒い網の貼ってある扉が見えました。
「ダ、ダクトだっ!」
その鉄の格子の扉は、60センチ四方ほどの大きさで、床からの高さは、1メートル半ほどありましたが、その下に鉄の梯子が50センチ間隔で2本、まるでタカシくんのためのように突き出ていました。
タカシくんは、すぐさま1本めの梯子に足をかけると鉄の扉の取っ手を握り、さらにもう1本梯子を上ってから取っ手をぐっと手前に引き寄せました。
ギギギイイイイ・・・
思ったより簡単に鉄の扉が右に開いて、タカシくんは扉の奥に左足を乗せてみました。60センチ四方の踊り場。そう言えば分かりやすいでしょうか?そこは、天井裏の通気孔に入るための入口で、タカシくんの背丈でも、天井裏に頭がすっぽり入ります。頭を中に入れると真っ暗で空気の流れるゴオオという音が聞こえました。
(こ、怖いなぁ。
なんか、お化けが出てきそうだ・・・)
カ・・カンカ・・カン・・カカン・・・
怖気づいて、ためらったタカシくんでしたが、空気の流れる音の隙間から、背後に大男の靴音が微かに聞こえて、心臓がまたドキンと鳴りました。ついに親衛隊の大男は、突き当りを右に曲がってきたのです。
いるかどうかも分からないお化けと、向こう脛を蹴られてカンカンの大男、どちらが怖いかなんて、誰だって明らかです。タカシくんは、「えい」っと気合を入れると、通気孔に上半身を潜り込ませておいて、突っ込んだ両手を懸垂のようにさせて穴の上に体を引っぱり上げました。
腰から下がスルスルと穴に引き寄せられていく最中、大男はついに、扉の外に追いつきました。
「はあはあ・・・
こ、このガキが。
とうとう追い詰めたぞ。
もう逃がさねえからな!」
穴からはみ出たタカシくんの足に向かって、大男の太い腕が伸びてゆきます。
《つづく》
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