〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第15回 向こう脛と毛布
カンカンカンカン・・・
ガルル皇帝親衛隊たちと思われる靴音がどんどん大きくなって、その音が大きくなる度にタカシくんの心臓の鼓動も大きくなっていきます。タカシくんは、さっきゲッベルスから教わったことをもう一度頭の中で繰り返してみました。
(まずは、向こう脛。
出たら左。
突き当たったら右。
そして、左のダクト・・・・)
うん、大丈夫。全部覚えています。タカシくんは、靴音のする廊下の角を睨みつけました。と、その時、その角から何人かの人影が現れました。
ドキッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ・・・
タカシくんの心臓は早鐘を打つように、息苦しいくらいに高鳴っています。
靴音が消えました。
大男たちが鉄格子の前で止まったのです。2人組みでした。
タカシくんは、やっぱりどうにも不安になってしまって、毛布にくるまったゲッベルスの方をチラリと見ました。目だけを出したゲッベルスのその目が、やさしく、そして決意を秘めて「がんばれ」と言っています。タカシくんは、ごくりとつばを飲み込みました。
「君は、宇田川タカシくんだね?」
親衛隊の大男の発する声は、丁寧な言葉使いとは裏腹に妙な威圧感がありました。
「う、うん・・・」
タカシくんは、大男の顔を見ずに下を向いたまま答えました。なぜなら、タカシくんのその視線は、大男の向こう脛をじっと見据えていたのです。
大男は、もう1人の男から鍵束を受け取ると、ガチャリと音をさせて鉄格子のドアを開けました。
「さあ、私たちと一緒に行こう。
君にちょっとばかり聞きたいことが・・・」
大男が「ある」と言い終わる前にタカシくんは、思いっきりの勇気と足の力で大男の向こう脛をつま先でしたたか蹴り上げました。
ガツンッ!
「ぎゃっ!痛タタタタ・・・・」
不意をつかれた大男は、向こう脛を抱えてその場に屈み込んでしまいました。(いいぞ!)と、ゲッベルスの声がした気がします。タカシくんはその脇をするりと抜けると
「出たら左、出たら左・・」
とつぶやきながら廊下を出て、一気に左側に駆け出しました。
「こ、このガキが! ま、待てぇ!」
向こう脛を蹴られた大男が立ち上がりながら叫びますが、タカシくんが待つはずはありません。大男は足を引きずりながらも、カンカンに怒ってタカシくんを追いかけます。
その場にとどまったもう1人の男は、タカシくんが逃げたことを報告するつもりなのでしょう。廊下の船内電話の受話器を壁から取ってボタンを2つばかり押しましたが、突然、「バサッ」という音と共に真っ暗闇に包みこまれてしまいました。
ゲッベルスです。
ゲッベルスが男の背後に忍び寄って、頭から毛布をかけてしまったのです。
「ム、ムグ、ムググ・・、ゲ、ゲッペルス!
貴様、皇帝陛下の最後の温情を・・
だ、台無しにしやがって・・・」
男の意味深な問いかけに、ゲッベルスは、顔を背けてこういいました。
「わ、私は、もう、あなたたちのやり方が、
ほとほと、い、嫌になったんだ!」
そして、毛布の先を器用にきゅっと縛るとゲッベルスは、大きなテルテル坊主を鉄格子の中に放り込んで、挿したままの鍵をガチャリと閉めてしまいました。
「こいつは、いただいて行く」
そう言ってゲッペルスは、鍵束をカチャカチャ言わせながら、タカシくんとは反対の方向に駆け出しました。
《つづく》
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