〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第13回 タカシくんと元財務大臣
一時も休まずに機械がゴウンゴウンと唸っています。いったい、ここはどこでしょう。薄ぼんやりとした光しかない暗い部屋でタカシくんは目を覚ましましたが、ここが何処なのかどころか、今が昼なのか夜なのかさえ分からずにいました。
確か、お父さんが大怪我をしたと聞いて、知らない髭もじゃのおじさんの船に乗せてもらって・・・
さて、そこから先が、どうも思いだせません。
(そうだっ!)
白い布が視界を遮って、どんどん意識が遠のいていって・・・
(ここは、病院?)
タカシくんは、辺りをキョロキョロと見回して驚きました。鉄格子です。泥棒が警察に捕まったときに入れられる牢屋です。タカシくんは、ゆっくりと立ち上がると鉄格子に近づいてみました。触るとひんやりと冷たくて、本島の小学校の校庭にある鉄棒のようです。本物の牢屋なのです。
鉄格子の向こうは、通路になっていました。そして、これもまた鉄でできた通路なのです。その狭い無人の通路にゴウンゴウンという機械の音が響いていました。
でも、なぜだろう、とタカシくんは思いました。
(だって僕、悪いことなんてしてないのに・・
なんで僕が牢屋に入れられているの?)
タカシくんは、鉄格子をつかんで叫びました。
「誰かーっ、誰かいませんかーっ!」
タカシくんは力いっぱい叫んだのですが、タカシくんの声は機械の音に飲み込まれてしまって、ちっとも遠くに届いているように思えません。
「誰かーっ、誰かいませんかーっ!」
もう一度叫んでみましたが、やっぱりタカシくんの声は、鋼鉄製の通路の途中で消えてしまいました。
その時です。タカシくんは、背後に人の気配を感じて、「ハッ」として、あわてて振り返りました。さっきまで部屋のすみの暗がりにあった毛布か何かと思っていたもの・・・、そいつが、顔を上げてこちらを見ていました。ひざを抱えていた人間だったのです。
男は、泣いていたようでしたが、涙を拭うと無理矢理笑顔を作ってタカシくんに話しかけました。
「もしかしたら君は・・・
宇田川・・タカシ・・くん、ではないかな?」
なぜ、見知らぬおじさんが、自分の名前を知っているのでしょうか?タカシくんは不思議でしたが、全く知らないところで人に出会って、しかも、その人が自分のことを知っている。不安がこみ上げて来た時だっただけに、タカシくんは、とても心強く感じました。
「うん、そうだよ。
ココロニア王国の宇田川タカシです」
「や、やはりそうか、ついに・・・」
男は、その後の言葉をあわてて飲み込みました。
「おじさんは、誰なの?
どうして僕のことを知ってるの?
それより、ここは何処なの?
なぜ、僕とおじさんは、こんなところに閉じ込められてるの?」
矢継ぎ早の質問に、男は質問に答えるタイミングを逸してしまったようで、口をあんぐりあけたままでいましたが、
「そ、そうだ!お父さんの怪我って大丈夫かなあ・・・」
タカシくんが急にふさぎ込むのを見て言いました。
「そのことなら、大丈夫だよ。
怪我だと言ったのは、嘘・・・、
い、いや、間違い・・だったようだから・・・」
「本当?ああ、よかったぁ」
タカシくんは、久しぶりに笑ったような気がしました。
「おじさんはね・・・
ちょっと前まで、千年帝国の財務大臣をしていたんだ。
名前は、ゲッベルス・・・」
《つづく》
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