〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第12回 タカシくんの日記
執事長は、タカシくんの部屋を見渡すと、机の上の本棚に立ててある厚手のノートを手にとってMARUZOHくんにこう言いました。
「タカシは、2年生になってから毎晩、
寝る前に日記をつけていました。
もし、タカシの身に変わったことがあったとすれば、
この日記を読めば分かるかもしれません・・・」
MARUZOHくんは、机の脇で立ったままパラパラと日記を繰っていきました。
「タカシくんはこのところ、タケルくんばっかりだなあ・・・」
MARUZOHくんが言うのも無理はありません。タケルくんの転向してからの2週間ちょっとの間、日記にタケルくんのことが書いてない日は、1度だってないんですから・・・
「遠回りかもしれませんが、関連した事実関係をつかむ為にも
4月の一番最初から読み返してみましょう」
「確かに、うん、その方がいいかもしれませんね・・・」
MARUZOHくんの提案に執事長が同意し、2人はいちばん最初のページを開きました。日記は、4月7日の始業式の日から始まっていましたが、それから1ヶ月程は、学校のことや大好きな歌のことばかりで、これといって事件と関連するようなことは書かれていませんでした。
2人はそのまま食い入るように日記を読み続けていましたが、ゴールデンウィークの家族旅行のページに差し掛かった時、執事長が「くっ」と声を漏らして、両手で顔を覆ってしまいました。楽しかった思い出と、「お父さん」という文字が、愛しいわが子を強烈に思い出させたのでしょう。それは、何もできない自分が悔しいでしょうし、可愛い一人息子をわなにかけた犯人が恨めしいでしょう。
「す、すみません・・・
MARUZOHさん、そこから先は、
1人で読んでいただけませんか・・・」
執事長は、しばらく嗚咽を漏らした後、涙を拭いながらそう言いました。MARUZOHくんは、黙ったまま頷きましたが、その眼は、爛々と光って、強い力が宿っていました。
5月下旬を迎えた辺りで、ふとMARUZOHくんの手が止まりました。そして、進んでは戻り、戻っては進みを繰り返ししながら、MARUZOHくんは執事長に尋ねました。
「僕はこの時、王国にいなかったのですが、
千年帝国の船団を最初に発見したのは、
タカシくんだったんですね・・・・」
「そうです。
確か・・・、そう、朝、カニ汁用のカニを取りに海岸に行った帰り、
アッタカ峠で船団を見つけたと言っていました・・・」
執事長は、その日のことを思い出しながらゆっくりと答えました。
「はい、日記にもそうあります。
そして、黒い船団のことは、
タカシくんにはよほどインパクトがあったのでしょうね・・・
この日記は、夜寝る前ではなく、夕方前に書かれているようです」
「と、言いますと?」
「その日の夜に、もう1つ日記が綴られています。
夕方拾った宝物のことが・・・」
「た、宝物?」
どうやらタカシくんは、「虹の卵」のことは、お父さんにも内緒の本当の秘密だったようです。
「千年帝国の黒い船団がやってきた日の夕方、
タカシくんは、虹色の円盤を海で拾っているようです。
タカシくんは、それを「虹の卵」と思い込んで
秘密の宝物にしたらしいんですが・・・・」
MARUZOHくんは、更に先を読み進めました。
そして、あるページに差し掛かった時、先程思い描いたいくつかの可能性の中の「タカシくんでなければならなかった理由」を、もう1度考えてみました。
眼をつぶったMARUZOHくんから「ひょっとすると・・・」という言葉が、口を突いて出るや、凄い勢いで執事長の方に身を乗り出しました。
「タカシくんの宝物「虹の卵」は、
タケルくんとのプレゼント交換で、
今、タケルくんの手元にあります。
タケルくんの言うように「虹の卵」がCD-ROMで、
それが、もし・・・
もし、千年帝国が落としていった機密文書だったとしたら・・・・
次は、次に狙われるのは、
「虹の卵」をプレゼントされたタケルくんかもしれない!」
執事長は、その時、贋作の製造を依頼してきたという、あの凶暴なガルル皇帝の残忍に笑う顔が克明に浮かんで、ある思いが頭をよぎりました。
(あいつなら、やりかねない・・・)と。
《つづく》
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