〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第8回 ココロオドル海岸にて
「本日の予定を申し上げます」
王様の一日の公務は、執事長のスケジュールの確認から始まります。
「まず、午前10時より議会があります。
まあ、いつもどおり1時間程度で全会一致で終わる決議です。
11時過ぎより、農林水産大臣の指導の下、
春野菜の収穫の手伝いがあります。
午後1時より、ちょっと遅いランチということになりますが、
これがなんと、大臣のお母様の絶品一夜干しです。
それから、お昼寝タイムとなります。
起床後・・・・・・」
執事長の説明は、この後も分刻みで続きますが、公務と言ってもその内容は、蜂の巣の退治であるとか、灯台のレンズ磨きであるとか、聞いていると、これがまたなんとも楽しそうな、しかも、とても王様がやるとは思えない仕事ばかりです。
独立以前の王様は、このコミュニティーをまとめるリーダーであったのと同時に、この施設の管理人だったことは、episode1でもお話しましたね。どうやら王様は、そのころの仕事のほとんどを王様になった今でも、まだやっているようなのです。ということは、王妃である王様の奥さんもまた、王国のみんなが大好きな自慢の料理を振舞っているのでしょう。
ココロニア王国とは、王様や王妃でもちっとも偉そうにしないで、王国のみんなと一緒に働いている国だったんですね。
王様と執事長、環境大臣との三人組は、アッタカ峠の大きな蜂の巣を撤去し終わると、やれやれといった表情で 顔を見合わせました。
「王様、それにしても大きな蜂の巣でしたね」
「ああ、本当に大きかったな。
タカシくんが教えてくれなかったら、
もっと大きくなって手が付けられなくなるところだった」
「嬉しいことに ここ数年、
ご老人や子供が少しずつ増えてきましたからな。
蜂の巣は、わが国の脅威になっておりますな」
そうなのです。ココロニア王国は、年間数名の移住希望者や、王国内で結婚して生まれてきた赤ちゃんのほか、MARUZOHくんのようにお嫁さんをもらって来たり、自分の親御さんを連れて来たりで、この数年で国民の数は、200人を超えましたが、もともとは若い人間の集まりが始まりでしたので、お年寄りや子供に対する配慮はほとんどしていませんでした。と言うより、今までは、お年寄りや子供がいませんでしたから、配慮する必要が無かったのです。環境大臣の言葉に 王様が答えます。
「蜂の巣に限らず、お年寄りや子供たちが暮らしやすい王国、
これが今のココロニア王国の一番の課題ですな・・・」
ココロオドル海岸に差し掛かると、国土交通大臣が待っていました。ここで環境大臣と国交大臣とがバトンタッチ、これから王様はココロニア灯台のレンズ磨きです。
「では、私は井戸の方に向かいますので・・」
そう言って会釈をすると環境大臣は、海岸から岬の灯台に向かう別れ道で王様一行とは反対の方向に向かっていきました。
ココロオドル岬の灯台に向かう3人は、そこで この島では珍しい光景を目にしました。小学生くらいの子供が二人、ココロオドル海岸の波打ち際で、キャーキャー言いながら遊んでいるのです。一方は、この島唯一の小学生タカシくんですが、もう一方の大きな子供は・・・
「おや?タカシくんと一緒にいるのは?
本島でも見たことのない子どもだな・・・」
国交大臣の質問に、執事長が答えます。
「本島の小学校の転校生、タケルくんですよ。
ほら、王国にも来るといってた地質調査。
あの調査員の方のお子さんです。
息子は最近、タケルくん、タケルくんって、
朝から晩までタケルくんなんですから。
今日は、初めてココロニアに招くんだって、
朝からそりゃあもう張り切っていましたよ。
今晩、ウチに泊まってもらうんですよ」
「なあるほど、それでタカシくん。
今日は本島からの帰りの船を
いつもより早くしてくれって言ってたわけだ。
しかし、王国に子供らの声が響き渡るのは、
これはいいもんですな」
「本当に・・・
いずれ、島中に子供らの声が溢れて、
ココロニア小学校ができる日も近いでしょう」
王様たち3人は、にこにこ顔で砂浜を駆け回る二人を見つめていました。
西の海が真っ赤な夕焼けにつつまれた頃、灯台のレンズ磨きが終わり、執事長は タカシくんたちに声をかけました。
「晩御飯のお味噌汁用のカニは取れたかい?
お母さんが待ちきれなくなってるぞ。
タケルくん、ウチの女房の作るカニ汁は、
本当にほっぺたが落っこちちゃうぞ〜」
二人はバケツの中のカニを確認した後、顔を見合わせて、喉をゴクンと鳴らしました。
《つづく》
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