やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
   maruzoh live.jpg

名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年10月03日

ツノナシオニ 第9回 煽動


ツノナシオニ 第9回 煽動 


 先生は、今までに僕が見たこともない表情をしていた。
 大勢の大人たちに囲まれて、確かに驚いてはいたけれど、先生の表情は、昨日帽子の取れたお父さんのツノを見てただ怯えて引きつっていただけのあの時とは、ちょっと違っているような気がした。
 タバコ屋さんの曲がり角で立ち尽くす僕ら2人に気もつかずに、たくさんのおじさんやおばさんがなおも先生に次々に質問を浴びせかけている。
 その荒々しい声が、こんなに遠くまではっきりと聞こえてくる。

「先生、答えてくださいよ。
ウチのクラスにオニが出たって、それは真面目な話なんですか?」

「ウチの子は、確かにツノを見たって言ってるんですが・・・」

「いやね、先生。
私は子どもの言うことですから、オニだなんて頭から信じている訳じゃありませんよ。
でも、でもですよ。
昨日の父兄会が中途で終わってしまった経緯、ことの真偽を、明らかにしていただかないとですね、ウチの子を安心して学校に通わせられませんよ」

「そのとおりです。
昨日の教室で、一体何があったんです?」

「あなたは担任、当事者として、父兄に対する説明の義務があるんじゃないですか?」

「その赤ら顔の大男ってのは、本当のオニなんですか?」

「それとも、子どもの見間違いや、悪質なイタズラなんですか?」

「授業参観を狙ったイタズラだとしたら、これは許せませんな」

「確かにそうですよねえ。
そんな親に育てられたんなら、子どもにも問題があるに決まってる」

「いや、まずは、本物のオニかどうかが先決ですよ」

 先生を取り囲んでいるのは、4年1組のお父さんやお母さんだった。
 どうやらこの騒ぎは、まだ始まったばかりで、きっとあの大人たちも僕らと同じ電車でこの駅に着いたに違いない。
 その証拠に、一息ついた先生の表情は、さっきに比べると随分と落ち着いて和らいできた気がする。
 その時だった。
 後から人をかきわけて、銀色眼鏡の立派なスーツのおじさんが先生の前に立った。
 眼鏡のおじさんは、お父さんお母さんの方を見て、もしトカゲがしゃべったとしたらこんな声だろうなっていう、高くてヌルヌルした声で言った。

「皆さん、何を甘っちょろいこと言ってるんですか。
いいですか、その親子が年に1度の父の日の授業参観を台無しにしたこと、これは既成事実なんです。
そんな問題のある親子は、オニだろうが、人間だろうが、関係なんぞないでしょう。
そんな輩は断じて、断じてですよ、ウチの小学校には置いておくわけにはいきません!」

「そ、その子は、問題行動の多い子なんですか?
非行とか、授業妨害とかはどうでしたか?
ウチの子は、そんな風には言ってはいなかっ・・・」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。
だ、か、らぁ、昨日の授業参観の中止、これが授業妨害以外の何物だってんですか?」

 優しそうなおばさんの声をいきなり遮って、トカゲ眼鏡のおじさんが声を張り上げた。

「でも、その子自身は何もしていないんじゃあ・・・」

「皆さんは、ちっとも分かっちゃいませんねえ。
私はね、その子がどんな子どもなのかをみんなで協議しましょうなんて言ってる訳じゃないんですよ。
そんなことは学校や教育委員会の仕事でしょ?
その為に私らは高い税金を収めているんだから」

 おじさんは西原先生をジロリと睨みつけて続けた。

「昨日起きた事件自体、授業参観が中途で終わってしまったということが問題だというのは、誰もが異論のないところでしょう。
だったら、起こした問題に対する処罰をどうしてくれるんだと、私はそう言ってるんです。
非行少年の再犯率ってのはね、実に高いんです。
きっとそいつはまた、必ず同じような問題を起こしますよ。
次に問題が起きてからでは遅いんです、手遅れなんですよ」

「た、確かに」

 違うおじさんが、ため息と一緒に頷いた。

「腐った蜜柑なんてモンはね、いや、腐る可能性のある蜜柑だって、早期に隔離するのが一番なんです」

「ク、クラスの子どもらに影響が出る前に・・・」

「そう、その通りですよ。
そのくだらない親子の為に大勢の子どもの将来に悪影響が及ぼされかねないんですからね」

「な、なるほど」

 トカゲ眼鏡のおじさんの話を聞いた後、10数人のお父さんお母さんは一旦は静かになった。
 ところが、その後一斉に先生に視線を向けると、またさっきを上回る勢いでわあわあと蜂の巣をつついたように騒ぎ始めた。
 僕が先生に視線を移すと、先生は路地裏の狭い空を見上げていた。
 先生は静かに涙を流していた。
 先生は、泣いていたんだ。

《第10回へつづく》




☆アルファポリスに挑戦☆
アルファポリスさんのランキング「Webコンテンツ」に挑戦します。「うふふ」とか「ほろっ」とか「なるほど」と感じたら、押してくださいね。

  児童小説 ツノナシオニ

posted by maruzoh at 07:33| Comment(0) | ◆ツノナシオニ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

検索
 

title.gif
maruzohは、アートビリティ作家さんを、応援します!

●ご連絡先● 〒165−0023 東京都中野区江原町2−6−7
社会福祉法人東京コロニー アートビリティ事務局内
TEL 03−5988−7155/FAX 03−3953−9461
●営業時間● 平日 9:00〜17:20 / 土・日・祝日 休業日