〜憧話 こころ王国 episode 1〜
まりなさんと王様 第14回 笑うマスター と 泣くまりなさん
ダンテBARのFree Birdsの一周年記念ライブは、
まさにマスターの思惑どおり、大盛況のうちに終わりました。
滲む汗にまみれて左手の痛みをこらえながら、
右手だけでピアノを弾く必死の形相の吉田さん。
それをサポートする文部大臣は、
まるで吉田さんの左手になったようでした。
本番前のリハーサルだけで、吉田さんのちょっとした癖までを、
完璧、まさに完璧にコピーしてのけたのですから、
そのテクニックといったら、まったく驚くべきものです。
しかも、文部大臣のピアノには、テクニックのある人にありがちな、
気取りとか、高慢さなんてかけらも感じられない、
いつかどこかで感じたようなあたたかさの伝わってくるものでした。
他のメンバーの方たちも、いつも以上にがんばり、
会場は、やさしさと、あたたかな一体感に包まれていました。
マスターは・・・
そのやさしさやあたたかさに触れたからでしょうか。
まるで取り憑いていた悪霊が落ちたかのように、
いつもの冗談好きのマスターに戻っていました。
一方、まりなさんのHart Landのライブは、どうだったのでしょう。
人気(ひとけ)の無い公園のベンチに、まりなさんがポツンといます。
まりなさんは、泣いていました。
悔しくって、悲しくって泣いていました。
自分の力の無さと、緊張と、
そして何よりも、今日の午後はいろんなことがありすぎて、
まったく自分の思うようなライブができなかったのです。
ピアノはとちるし、歌詞は間違えるし、音程は外すし・・・
客席が沸くことが無かったどころか、
まりなさんが演奏を終えて挨拶をしても、
客席からはパラパラとまばらな拍手しか起こりませでした。
きっとHart Landの店長の評価も低かったにちがいありません。
まりなさんは、もう消えてなくなってしまいたいような気持ちでした。
「あったかい紅茶、ミルクティー買ってきたよ」
MARUZOHくんが、
自販機で買ってきた紅茶をまりなさんに手渡しましたが、
まりなさんは、まだ泣き止みません。
紅茶に口をつけるとMARUZOHくんは、
はあっと白い息を吐いてからまりなさんに言いました。
「今日のことは、もう忘れちゃおうよ。
次、頑張ればいいんだしね・・・
そうだな、次は「ちいさい秋みつけた」も歌ってほしいな」
でも、まりなさんは、ずっと泣き続けています。
MARUZOHくんは、それからもまりなさんに何度も話しかけて、
励まし続けたのですが、
まりなさんは泣くばかりで、一言も話をしようともしません。
と、その時、ふと「ちいさい秋みつけた」のメロディーが、
どこからともなく流れてきました。
ああ、MARUZOHくんのケイタイの着メロのようです。
「あっ、執事長、お疲れ様です。
そっちのライブはどうでした?えっ、成功?
文部大臣が?へえ、それはよかった・・・
えっ?父さんが?うん、代わってください。
はい、MARUZOHです」
どうやら、ダンテBARにいる王様の執事さんかららしいのですが、
今、確かMARUZOHくんは、王様に代わる時に、
王様のことを「父さん」と、呼びませんでしたか・・・?
《つづく》
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