やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年08月21日

ワレナベニトジブタ 最終回


ワレナベニトジブタ 
〜人生をやり直して見たい方へ〜 最終回 


始まりはマンションの集合ポストに不法に投函されていた1枚のチラシ
「人生をやり直して見たい方へ」などという極めて如何わしい代物だった。
そのチラシの池袋北口のヒューマンライフ・トラベル社に博士を訪れた私が、
なけなしのへそくりと引き換えに「割れ鍋に綴じ蓋現象」、
つまり、神と呼ぶべき存在を肯定せざるを得ないという事実を知ってから、
もう、既に1ヶ月が過ぎようとしていた。

しかしながら、あの日を境に私が声を大にして
神の存在を周囲にふれまわるなどということをするはずもなく、
また、先回りした人生に挑戦すべく
がらっと生き方を変えてしまおうなどと心に誓うこともなく、
私は相変わらずそれまでと大差ない毎日を送っていた。

ただし、私がそれまでと全く同じままかと言うと、
それは少しばかり違っているようだ。
最近の私には、どうしてだろう?
ある種の余裕とも言うべきものが備わってきているのかもしれない。
しかしそれは、自分が唯一無二の存在であるということから生まれる、
驕りや傲慢、不遜と言った劣情とは背反する感情であり、
むしろ、この世界を形成する極めて精密なピースであると言う自覚が、
私の平坦に見える毎日に誇りを与えてくれている気がするのだ。

それに、「割れ鍋に綴じ蓋」の話を聞いてから、
知らず知らずのうちに女房に対する態度や言葉が
自分でも気がつかないうちに変わってきているのかもしれない。

それとも、私の単なる気のせいなんだろうか?
いやいや、そうではあるまい。
実は、今日も女房に付き合わされて、
私は川越サンロードに買い物に来ているのだが、
以前の私なら生欠伸を繰り返していた買い物も
これがまた、この頃は、ちっとも苦痛ではなく、
なぜか、むしろ楽しいくらいなのだ。
こんな気持ちが、周りにも影響するんだろうか?
最近の私は、実に女房に受けがいいのである。

「あっ、ちょっと待って、ポスト、ポスト。
これ、手紙、出したいんだ」

私は、先を急ぐ女房を少し待たせて、
厚めの封筒を四つ角のポストに放り込んだ。

「また絵手紙の会?
展示会近いんだったっけ?
でも、今月は会合少ないわね・・・」

ドキリとする。
相変わらず、勘、鋭いなぁ。

「いや、絵手紙じゃないよ。
そう、ちょっと世話になった人にね」

私は、自分でそう言っておきながら、
「世話になった」という言い回しが可笑しくなってしまい
くすっと笑ってしまった。
お客としてなけなしの金を払ったのは、私の方なのだ。

「な〜んか、怪しいわねぇ・・・
世話になった人って、だあれ?」

「ふふふ・・・ 
きっと恩人になるだろう人だな。
でも、まだ今は、内緒」

私がそう言って笑いながら歩き出すと
「もぉ〜」と、女房がすねた風を装って追いかけてきた。



 拝啓
 過日は、大変お世話になりました。
まさに私にとって衝撃的な事実を知らされたあの日、私は半ば放心状態のまま帰路についてしまい、家に帰るまでのはっきりとした記憶すらないものですから、もしや、礼を欠くような振る舞いがあったのではないかと心苦しく思っております。あれからの1ヶ月を進みつ戻りつ過ごし、私もようやく冷静かつ客観的にあの日のことを考えることが出来る様になり、遅ればせながらこうして、筆を取らせていただきました。
 あの日の翌日。朝刊で和田先生が亡くなった事実と、和田先生と西条由紀さんが、いつしか結婚していた事実を知り、それにより自らが封印していた過去の事実が、仮に博士により知らされなかったとしても、極めて近い将来に運命的に知らされるということがわかりました。他のパラレルワールドとは、1日の時間的なずれはありましたが、1日という単位など連綿と紡がれて来た歴史の中では、容易に修正し得る微小な誤差の範囲内なのでしょう。それはきっと、我々人類にとって8千メートル級の高山や1万メートルを超える海溝を持つ広大な地球ですら、宇宙的な規模で見たならば極々微小な球体にしか見えないのと一緒なのでしょうね。
 しかし、私にとっての驚きはそういった宇宙規模の問題だけではありませんでした。いえ、むしろ、それ以降に私に襲ってきた内面的な感覚こそが、まさしく真の発見でした。発見、そう発見なのです。この頃の私には、封印するほどに忌み嫌ったはずの過去が、私をほんの少しずつですが、なぜか前進させてくれているように感じたのです。なぜでしょう?その力が、なんであるのか。1ヶ月を経て、最近、私はようやくわかってきた気がします。
 人間に限らず生き物は、全て子供から大人になっていきます。しかしそれは、肉体的な成長とは異なるものなのです。年齢や肉体の成熟には関係なく、本当の大人になる瞬間と言うのは、今回のように目を背けたい事実を正視する、正視できる、そんな時なのではないでしょうか。いつしか誰にでも、好むと好まざると、正視せざるを得ない場面が訪れるのです。つまり、由紀さんと和田先生のことを思い出すあの瞬間まで、無意識のうちに過去を引きずって逃げてばかりだった私は、体の大きな年取った子供だったのではないかとさえ思ってしまうのです。
 更に私は考えました。「割れ鍋に綴じ蓋現象」を知って以来、生命として存在しているものの全てが、存在理由があると思えてきたのです。野に咲く花にも、それに群がる蝶にも、それを見つめる私にも。そして勿論、その綴じ蓋である妻にも。生命のバトンを受け渡す全ての1輪1輪、1匹1匹、1人1人が、特別な存在に見えるのです。そう、それこそが我々のプライドたるべき魂なのです。我々、この連綿と紡がれてきた、ただ1通りしかない組合せのDNAの中では、たった1つの小さなピースであったとしても、欠くことのできない、唯一無二のピース、存在であるはずなのです。
 私は博士と出会い、色々なことを教えていただき、色々なことを気づかせていただきました。もし出来ることであれば、女房と2人で何十年か先、満足した人生が送れたと実感したならば、過去のアルバムを紐解くように、博士の発明されたあの機械を「素晴らしい思い出を覗く鏡」として、笑顔の中で利用できればと思っております。
本当に、ありがとうございました。
                      敬具



「意地悪ね、ねえ、教えてよ」

「うん、そう、いつか近い将来にね」

「きっとよ」

さりげなく私の右腕に、女房の左腕がするりと滑り込んできた。
おいおい、突然なんだよ。
もうお互い40半ば同士だぞ。
知ってる人に会ったら、恥ずかしいじゃないか・・・
でも、腕を組んで歩くなんて、何年ぶりかなぁ。
うん、恥ずかしいけれど、
不思議と、ちっとも悪い気はしない。

《おわり》


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posted by maruzoh at 09:16| Comment(0) | ◆ワレナベニトジブタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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