やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年08月10日

ワレナベニトジブタ 第9回


ワレナベニトジブタ 
〜人生をやり直して見たい方へ〜 第9回 


説明を終えた博士は、ふいに赤や黄色のケーブルの束をまたぐと、
その裏側に回りこんで私に「どうぞ」とばかりに手招きをした。
敢えて隠したというわけではないのだろうが、
大きな機械の陰には、6畳ほどの小部屋のドアがあった。
博士はケーブルで閉まらないドアを空けたまま更に手招きを続ける。

「さあどうぞ。ここがモニタールームです」

博士に案内された私は、壁掛け型の大きな液晶モニターの前に腰掛けた。
博士は、私とは別の側面に据えられたキーボードに向かって座ると
カタタタタタタタ・・・・・
軽快な指使いで、恐らく私のであろうデータを入力した。

「さて、これからタカハシくんが抽出してくれた何種類かのパラレルワールド、
つまり別世界の複数の鈴木さんの過去をご覧戴きます。
そしてその後、更に、そこから導き出された『ある結論』についてご説明します。

ただ、ご覧戴く前にもう一度注意しておきます。
くどいとお思いでしょうが、もう一度だけ。
いいですか?
あなたが家出を企てたのは、決して画家になりたかったのではなく、
ただ由紀さんに恋をしていたのだという事実。
そして、先生と由紀さんの大人の関係を知り、その想いを断ち切る為に、
敢えて未遂に終わらせるべく狂言家出を行ったと言う事実。
この2点を忘れずに、昨日までの既成概念・・・と言うより、
あなたにとってのええカッコしいの、都合のいい記憶を全て取っ払って
是非とも純粋な、無垢な心でご覧いただきたいのです」

私が頷くのを確認すると、博士はエンターキーを、押した。

「あっ!」

私は思わず声を漏らしてしまった。
昭和58年2月16日の私がいる。
あの冬の朝の場面が、スクリーンにいきなり現れたのだ。

正直な話、これだけの説明を受けても尚、
私は心のどこかで博士を100%信じられずにいたのだが、
この映像を突きつけられて、その考えは微塵もなく吹き飛んだ。
だって目の前に、本当に寸分違わぬあの日の私がいるのだ。

昭和58年当時はまだJRの前身の国鉄で、
その国鉄身延線の紺とクリーム色の上り1番電車が、
警笛を1つ鳴らして、プラットホームに滑り込んできたところだった。
周りをきょろきょろと見回す不安げな私。
ドアが開き、発車のベルが鳴るが、なぜか父は来ない・・・

「そう、このパラレルワールドでは、
家出を阻止する為に駅に駆けつけたお父さんは現れません。
因みに、このパラレルワールドの出現率は、全体の約2%程度です。
駅で連れ戻されたパターンと違って1人でいる時間が長いので、
車中での鈴木さんの様子をよく見て頂こうと思いましてね。
おや、あなたを乗せた上り電車が、もう出発しそうですよ」

画面が車内に切り替わり、プラットホームがだんだん小さくなっていった。
私は、博士に言われた通り「車中の私」を観察することにした。
画面に見入ってすぐ、私は画面の中の私に違和感以上の何かを感じた。
どうにもチグハグなのである。
未知の世界に飛び込むことを思えば、確かに不安は小さいはずはない。
しかし、画家になるという青雲の志を抱いての上京であるのなら、
その不安を凌駕するような燃える思いがあるべきじゃないか。
ところが、画面の私はというと、これがどうにも落ち着かないのである。
檻の中の小動物のように必要以上にキョロキョロと辺りを見回したり、
壊れかけた座席の毛を意味無くむしったりして、妙におどおどしているのだ。
そして、何をだろう?
何かを待っているような、そんな表情を時折垣間見せる。

「車内のあなたの様子、ご覧になって如何でしたか?
私がこの家出を狂言と断言したのも、お分かり頂けたでしょう」

博士の言葉に、私は頷かざるを得なかった。

「さあ、そろそろ富士駅に到着ですよ。
ここで、更に決定的な事実が明らかになります。
注意してご覧下さい」

やがて車両は、人口20万人の地方都市富士の駅に滑り込んだ。
この富士駅から延びてゆく東海道本線の行き先には、
師と仰ぐ和田先生と、憧れの街東京が、待っているはずだった。
東海道本線のホームに降り立った私は、
ちょうど昇りかけた朝日の見当に当たる上りの線路の先、
東京へと続く2本のレールを凝視していたが、
やはり私にはその眼が、志を持つ夢多き若人のそれとは、
どうしても違う風に見えてしまうのだった。
乗換えまで まだ15分程の時間があるようだ。
画面の私がベンチに座り込んで大きくため息をつくのを、
私もこっそりとため息をついて見守っていた。

と、その時だった。
ベンチの私の背後に忍び寄る人影が1つ。
父だった。
出現率2%のこのケースでは、駅では間に合わなかった父は、
恐らくクルマをとばして来たのだろう。
そして今、この富士駅の上りホームで追いついたというわけだ。

父はやさしく、俯いていた私の肩に手を置いた。
驚いて振り向く私。
この時の私の表情を、画面越しにもう1人の私は、決して見逃さなかった。
それは、連れ戻されることに抗うのではなく、
まさに安堵そのものと言うべき表情であった。
いや、私にはむしろ、待ち侘びた人がようやく来たとさえ見てとれたのだ。

しかし、それ以上に私が驚かされたことがあった。
それは、当事者であったあの頃の私には到底気づかなかった、
いや、気づくことができなかったことである。
それは今、自分が父親になってこそ、初めて気づけたことなのだろう。

この時の、私を見やる父の眼は、私のこの情け無い気持ちを、
余すことなく全て、見抜いていたということだった。

「もう、いいんだ。帰ろう・・・」

父が、私の肩を、やさしく抱いた。

《つづく》


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posted by maruzoh at 17:33| Comment(0) | ◆ワレナベニトジブタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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