やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年08月08日

ワレナベニトジブタ 第8回


ワレナベニトジブタ 
〜人生をやり直して見たい方へ〜 第8回


複数の記憶をコピーして、簡便にまとめ、
それをいいとこ取りに合成して、新たな引き出しを作り出す。

分かったような、分からないような説明だ。
私の顔色を察したのか、博士は続けた。

「例えばです。
百科辞典の中から必要ないくつかの情報を得るのに、
どれだけ暇な人だって1ページ目から順番に調べる人はいません。
索引や目次を使ってなるべく早く情報を得ようとします。
しかし、頻繁にその情報が必要な場合だったら、どうでしょうか。
毎回毎回、同じような手順で索引や目次から検索するのは、
どう考えたところで時間の無駄としか言えません。
必要な情報が何ページだったのかを記録しておけばいいのです。
しかし、より以上頻繁に利用する場合、鈴木さんならどうしますか?
そうですね、ノートやメモ帳にその情報を書き写しますよね。
そしてその後は、その情報が必要な時は百科辞典ではなく、
そのノートやメモ帳を見るだけで同様の情報を得られる訳です。
我々に必要なものは、情報、つまり記憶の内容であって、
この情報の出典、出どころなどではないのです。
しかも、ですよ。
そのノートに書き込まれている情報の全てが必要ではない時、
必要な部分のみを抜粋して、他の情報と組合せておけば、
その効率は、格段とよくなる訳です。
この抜粋して組合せた情報が、新たに作られた引き出しです」

私は理解し、頷いたものの、少しばかり引っ掛かることがあった。

「はい、ほぼ理解できました。
でも、ちょっとだけお伺いしたいことがあります。
世間の百科辞典に載っているのは、
人類の長い歴史の中の事実に基づいた客観的な記述ですよね。
しかし、私たちの記憶などは、十人十色の主観的なものです。
これらは、単純に置き換えられるものなんでしょうか?」

博士は、ちょっと驚いたような表情をして、次に頭を掻いた。

「いやいや、あなたは実に素晴らしい。
過去最高の顧客です。
ふふふ、タカハシくんよりも数段鋭い所を突いてきます。
そう、その通り。
鈴木さんの仰る通りです。
今のは、その話に移行する導入部でした」

博士に褒められて、悪い気はしなかったが、
逆にこれだけ持ち上げられると、これが結構のプレッシャーとなる。
滅多なこと、頓珍漢なことは、もう言えまい・・・

「ご指摘の通り、個々の記憶というものは、実に主観的なものです。
ある事実が、見方によっては悲劇でもあり喜劇でもあるのと同様、
それぞれの記憶の価値観は、多種多様、千差万別です。
ある人にとっては重大な事実も、ある人にとっては無意味であり、
ある人の大切な思い出も、ある人には記憶にすら残らない。
また、それと共に極めて重要であるのが、
記憶の管理者、つまり我々が、ええカッコしいだということです」

「え、ええカッコしい、ですか?」

「そうです、皆、ええカッコしいです。
平たく言えば、私も鈴木さんも、ジーザスやお釈迦様なんかとは程遠い、
欲得や煩悩にまみれた俗な人間だということです。
勿論、私や鈴木さんだけではなく、地球上の誰もがそうです。
でも我々は、だからこそ、それ故に自分を特別で崇高な存在、
唯一無二の存在であると思いたいのです。
人は誰もが自らの存在価値、存在理由を肯定したいのです。

ところが、現実に眼を向けてみるといかがですか?
自分なんて、どう見積もっても十把一絡げのその他大勢でしかありません。

それでも人は、ほんの少しでも、ほんの僅かでも、
自分を価値の高い存在であろうと足掻くのです。
そう、いろいろな言い訳やシチュエーションを作り出しては、
自分を正当化、美化しようとしているのです。
記憶とは、事実の積み重ねではなく主観の積み重ねであり、
その主観は常に自分の価値を高めるよう美化されています。
鈴木さんが何を正当化し、美化したかは、お分かりですね」

私は、ゆっくりと頷いた。

「そう、ご想像の通り、家出未遂事件です。
しかし、これは正確には、家出の狂言です」

「きょ、狂言ですか・・・」

「言い方はちょっときついかもしれませんが、
行う意志もない見せ掛けだけの行動です。
これは、何者かを欺く為の狂言以外の何物でもありません。
ただし、本件の場合、それが誰を欺くための行動だったかというのが、
大きなポイントとなってきます」

「・・・・・」

「そう、本件は、加害者も被害者もあなた自身です。
あなたは、あなた自身を欺いたんです。
自分は上京して画家になりたかったと思い込ませたのです。

では、なぜあなたは、自分を欺かなければならなかったか?
過去から現在、未来に向かって3つの理由があります。
一つは、それまでの自分の思想、行動を正当化する為、
更に、現在の自分がなるべく傷つかないようにする為、
そして、将来の自分への言い訳の為にです。

但し、これは一瞬で行われる訳ではありません。
そんなに都合よく頭が切り替わる訳ではありませんし、
仮に出来たとしても、一時的で弱い記憶にしかなりません。
こう言ったものは、かなりの時間を経て、じっくり構築されるからこそ、
強固なものになり得るのです。

ここで、先程説明させて頂いた新たな記憶の引き出しの話に戻ります。
頻度が高い思い出を、コピーをし、要約をし、合成をし、バイパスを作る。
そんな作業が時間の経過と共に何度となく繰り返される訳ですが、
誰もがご存知のように、コピーのコピーは劣化します。
濃淡の鮮明さが失われて、コントラストばかりが強くなります。
また、合成された記憶の中で特定の事実さえ無くなれば、
他の記憶との繋がりに不自然さや矛盾が無くなると感じると、
不要なパーツは、いつしか淘汰、排除されていくのです。

鈴木さん、あなたが排除したパーツ。
そう、それこそが、西条由紀さんなのです」

《つづく》


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posted by maruzoh at 18:36| Comment(0) | ◆ワレナベニトジブタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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