やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年08月05日

ワレナベニトジブタ 第6回


ワレナベニトジブタ
〜人生をやり直して見たい方へ〜 第6回


 女房が絵手紙の会合だと思っているその日の午後、
例の雑居ビルで1週間振りに博士と対峙した私は、
あまりの驚きと恥ずかしさに真っ赤になったまま、
満足に声を発することも出来ず立ち尽くしていた。

私は、今朝ほど発見したばかりの古びたジグソーパズルのピース、
すなわち由紀さんという女性の存在を、
博士に言うべきなんだろうとは思っていたもののすぐには切り出せず、
どのタイミングで打ち明けたものかと思案していた。

ところが博士は、簡単な挨拶を済ませると、
極めて事務的にボードに挟み込んだカルテのような書類に、
赤のボールペンでいくつも矢印を入れながらこう言った。

「鈴木さん、あなた画家になりたかったと仰ってましたが、
どうやらそれは、実際とは、ちょっと違うようですな」

「・・・・・」

「それぞれのパラレルワールド、
今回は無作為に120ほどの違った鈴木さんを収集してみましたが、
集まった事実をデータ化して分析すると、
必ずひとつの結論に帰結するんですよ。
本人を前にしてちょっと言いにくいのですが、
あなた本当は、画家になんかなりたいわけじゃなかった、と」

「・・・・・・・」

「では鈴木さん。
あなたは何を求めて上京しようとしたのか。
画家になりたいと言う名目に隠された本当の上京の理由、
言わば、真の目的は何だったのか・・・」

「あう・・・」

私は、博士や例の装置のことを信じていないわけではなかったが、
今、この瞬間に目の前にいる相手が、私の過去の全てを把握し、
その当時の私の心理を見透かしていると考えると、
真っ赤な顔とは裏腹に背筋が寒くなる思いがした。
自然、舌が強張ってしまう。

「真の目的。
こういう場合は大概においてそうなんですが、
世間一般では志が低いように思われがちなものを、
高尚な目的であるとか、やむを得ぬ義理であるとか、
そんなオブラートでコーティングする場合がほとんどです。
本件に当てはめるならば、物欲とか性欲とかを、
芸術という衣で包むことになるわけですが・・・・」

「ゆ、由紀さん・・・」

「ほう、やはりあなたは、優秀な顧客ですなぁ。
いやいや、大したもんです。
この1週間で、失われたピース、記憶の断片を探し出したんですな
しかし、そうなれば話は早い。
西条由紀さんという女性ですな、和田先生のお手伝いさんの。
当時のあなたの行動の全てが、このように、ここに繋がってくるんです」

博士は、カルテに書かれたたくさん矢印の中心、
「西条由紀」という4文字を先ほどと同じ赤ペンで濃くなぞると、
ぐるぐるっと丸く囲んで見せた。

「例えば、この間うかがった田舎の駅での早朝の家出未遂事件。
あれ、あなた、始めっから行く気は、まずほとんどなかった。
というより、あの時点で、行く理由を失っていた。
違いますか?」

「・・・・・・・・」

「ほう、ここまでは、まだ整理がついていないんですね。
いえいえ、よくあることなんですよ、人間には。
人間ってのは、非常にムシのいい生き物でしてね、
自分にとって都合の悪い部分の記憶をスポッと、
まさにそこだけスポッと抜き取ってしまって、
前後の状況から自分が傷つかない記憶を
勝手に構築してしまうもんなんです」

「じゃ、じゃあ、私の家出未遂は、
私が勝手に作った想像の産物なんですか?
そ、それにしては、リアルな記憶なんですが・・・」

私は、少しずつ自分を取り戻し始めていた。

「いえ、早朝、駅に行ったのは事実ですし、
お父さんに連れ戻されたのも事実です。
ただ、ここからが重要なところですからよく聞いていてください。

私が、なぜこんな話をしたのかと言いますと、
先週の鈴木さんからのご依頼が、
『あの時、家出が成功して上京していたら、
私は画家としてどんな人生を送ったか』だったわけですが、
もし、家出の失敗自体が『鈴木さんの意思』だったとしたら、
家出は、他のパラレルワールドでも行われないか、
もし、ごくレアなケースで行われたとしても、
家出失敗の失敗によっての上京なわけですから、
自ずと求める結果とは違うものになってしまうはずです」

「な、なんとなくですが、分かるような気がします。
私が封印した記憶と言うのは、ひょっとして・・・」

「思い出してきましたか?
和田先生には、学生結婚した奥さんがいましたからねえ。
若き鈴木さんは、まさか妻子ある和田先生と由紀さんの関係が、
お手伝いさん以上だとは思ってもいなかったわけです。
ところが、あなたが家出による上京を企てる直前、
電話での和田先生とのさりげないやりとりから
あなたは思いがけず2人の関係を知ってしまいます。
たいへんなショックだったでしょう・・・
そして、鈴木さん。
あなたはこれにより、上京する理由を、失ってしまったのです」

《つづく》


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posted by maruzoh at 13:00| Comment(0) | ◆ワレナベニトジブタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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