やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年08月02日

ワレナベニトジブタ 第4回


ワレナベニトジブタ 
〜人生をやり直して見たい方へ〜 第4回


決して忘れはしない。
あれは、寒い冬の朝。
微かに白みはじめていた東の空。
昭和58年2月16日のことだった。

駅へ向かう21歳の私の心臓は、
まさに早鐘を打つように高鳴っていた。
肩にかけたスポーツバッグに詰め込んであったのは、
わずかばかりの着替えと油絵の道具、
アルバイトで貯めた当面の生活費、
今まで描き溜めた数点の作品、
そして、期待よりも遥かに大きい、不安だった。

私は、静岡県の片田舎から
私が尊敬してやまない画家、和田京作先生の下へ、
両親の反対を押し切って上京するつもりだった。
卓袱台には、私の決意を記した置手紙を両親に宛ててきた。
私の手には、和田先生から送られてきた
東京行きの片道切符が固く握り締められていた。

田舎町のちっぽけな駅の待合室は開け放たれていて、
冷え切った外気を遮る何物もなかった。
身も切れるような寒さの中、
始発電車を待つ数人の労働者らしき男たちに混じり、
私はポケットに手を突っ込んで独り言と共に白い息を吐いていた。
私は、昨晩はほとんど眠ることができず、
どうにも気が急いてしまい、早く着き過ぎてしまったのだ。

腕時計をちらちらと見ながら寒さに耐えていると、
駅員が鋏をカチャカチャ言わせながら部屋の奥から改札に向かって来た。

「富士行きの始発電車、間もなく到着しまーす」

ようやく落ち着いてきた私の心臓は、再び鼓動を激しくしていた。
私は、敢えてゆっくりと立ち上がると、
冷たい空気を胸の奥に思い切り吸い込んだ。
あの時の、頭の芯の辺りがキーンとした感覚は、
今でも、はっきり覚えている。

パチン!

私の旅立ちを祝福するかのように、厚手の切符に鋏が入れられ、
切られた紙片が綺麗に飛んだ。

改札を過ぎ、単線のレールを乗り越えて、5段ほどしかない階段を上ると、
見慣れたホームが変わらずに横たわっていた。

カンカンカンカン・・・

ほどなく、下り方面の踏み切りの警報機が鳴り始め、
いよいよ電車の到着が近いことを知らせる。
いよいよだ。
ライトを灯した電車が遠くに姿を現したかと思うと、
それはみるみるうちにホームに滑り込んで、
私の目の前の停車位置に、ぴたりと静止した。
その時だった。

「ま、守っ!待てっ!考え直せっ!」

父だった。
走ってきたのだろうか?
真っ白な息を、競走馬のように荒く吐きながら、
父が、駅員の制止を振り切って階段をかけて来る。

父はあっという間に私の傍らに立つと、
私の右腕を掴んで、もう一度、

「守、待て。考え直せ・・・」

と、今度は静かに言った。
相変わらず父は、白い息を吐き続けていた。
私は、父の手を振り切ろうともせず、
ただぼんやりと、父の顔を眺めていた。

ピリリリリリリリ・・・・・

車掌の吹く笛の音が、私の意識を取り戻させた。
私は、顔では電車を追いながらも、
やはり、体は、そのままその場から動けずにいた。

そして、ゆっくりと始発電車のドアは閉まり、
立ち尽くしたままの私たち親子を残して
電車はプラットフォームを離れ、徐々に速度を上げていった。

電車が去り、見えなくなり、
ほっと、安堵している自分の気持ちを、
私は、どうしても、許すことができなかった。

人目も憚らずに泣いていた私には、
画家になる機会を失った悲しみなど、既に、微塵もなかったように思う。
ただ、自分の弱さが、悔しかった。
父が鷲掴みにした右手が、じんじんと痺れていた。

《つづく》


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posted by maruzoh at 21:41| Comment(0) | ◆ワレナベニトジブタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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