やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年07月31日

ワレナベニトジブタ 第2回


ワレナベニトジブタ 
〜人生をやり直して見たい方へ〜 第2回


土曜日の朝、私は大きな決意を秘めて、
東武東上線の車中の人となっていた。
悩みに悩んだ挙句、あのチラシの裏面に記されていた
豊島区西池袋のビルを訪ねてみようと、そう決意したのである。
もちろん、女房子どもには内緒に決まっている。

「ちょっと絵手紙の会合で、池袋に行く」

女房には昨晩、そう言っておいた。
すなわち、これにかかる経費は、私の自腹。
雀の涙ほどの小遣いを爪に火を灯す思いでようやく貯めたへそくり。
油絵の道具を購入する予定だった資金が
このくだらない賭けの元手となるのだ。

(いかがわしそうなオフィスだったら、即退出!)

 私は、「池袋駅北口徒歩7分」という所在地に
一抹どころか、二抹も三抹も不安を抱いて、
いい加減な地図を頼りに平和通りの脇道を更に進んでいった。
7分という、近いとも遠いとも取れる微妙な表示は、
当然の如く「虚偽記載」であり、
競歩の選手ですら時間内の到着は危ういのではないかという距離を歩き、
私は7階建ての築数十年はするであろう雑居ビルの前に立った。
私の目指すヒューマンライフ・トラベル社は、
白地に紺の太明朝体の看板も眩しく、そのビルの3階にある。

 私はエレベーターの前で、ごくりと唾を飲み込んでから、
今時珍しい、突起したBの「ボタン」を、押した。
エレベーターは、ガッタンと1度揺れてからのろのろと上昇し始めた。
私の心臓がドキンとしたのは、
この何年使っているのかわからないエレベーターの
軋みと振動のせいだけではなかった。
エレベーターが再びガッタンと揺れて、
扉がガ・・ガ・・ガガ・・と呻くようにゆっくりと開いた。

部屋中に散乱する機械とケーブルの中で、
くしゃくしゃの髪に白衣姿、眼鏡をかけた若い男が、
振り返って私の方をぽかんと見ていた。
暫くの間、私たちはなんとも不思議な間合いで、
無表情のまま見つめあっていた。

(やっぱり、帰ろう・・・)

私がその状況に耐えられなくなり、
乗ってきたエレベーターに再び乗り込もうと
降り用の「ボタン」を後ろ手で押した時だった。
ガガ・・ガガ・・というエレベーターの扉が軋む音を遮って
女の子の素っ頓狂な声がした。

「は、博士ぇ、お客さんじゃないですかぁ!
何ボーっと見てるんですかぁ!」

声の方に眼を向けると、大きなケーブルの付いた機械の影から、
彼とは全く釣り合いの取れない、まるでアニメキャラのような女の子が
白いつなぎ姿で忽然と現れ、粘るような口調で私に語りかけた。

「いらっしゃいませぇ。
今日はどうなさいました?
チラシをご覧になられた方ですかぁ?
ご予約は、されてませんよね?」

博士と呼ばれた彼は、それでもまだ私を凝視したままだ。
私は、なんと答えていいものか躊躇した。

「・・・・・・」

その時彼は、ようやく体の向きをこちらに変えて、
私に向かって声を発した。

「いや、失敬失敬。
なにせ飛び込み客なんて初めてだったもので、
押し売りとかの営業マンかなと思ってしまって・・・
しかし世の中には、あんな胡散臭いチラシ1枚で、
いきなりのこのこと来る人間がいるもんなんですなぁ」

「は、博士ぇ!
なんてこと言うんですかぁ!
せっかくのお客様に対してぇ・・・」

彼は続けた。

「いやいや、責めているわけじゃありません。
あなたは、よほど内に秘めた思いが強いと見える。
気になることがあって、矢も楯もたまらないって、そんな風にね」

確かにそう言われてみればその通りだ。
何の具体性も無ければ、料金設定も書いていない。
あんなチラシだけを頼りに、私もよくぞここまでアポなしで来たものだ。

「た、確かにそうかも、知れませんね・・・」

博士とやらの言に、私は思わず同意してしまった。

「となればタカハシくん、
チラシを作成した君のコピーライト能力も、
まんざらじゃないようですね、フフフフフ・・・」

しかし、「人生をやり直して見たい方へ」という胡散臭い、
しかも、そこいらにありがちな陳腐な台詞の中に、
私の琴線に触れる何か、そう、何か特別な思いが、
そこにあったのではないかと、私には思えてならない。

タカハシ女史は、博士を無視して、
私にぎこちない営業用の笑顔を振りまいて言った。

「当社は、「ヒューマンライフ・トラベル」という社名ですが、
ご覧の通り旅行代理店ではありませぇん。
かと言って、深層心理から自分探しをするというような
催眠術の類でもありませんしぃ、
前世とか守護霊とかの心霊占いとかとは無縁ですぅ。
ましてや、忘れてしまった記憶を調査するといった
探偵社には見えないでしょぉ?」

「はぁ・・・」

「当社は、科学的な装置により、まさに、あなたの分身、
いえ、もう1人のあなたの行く末をご覧いただけるのですぅ。
ちなみに特許出願中で〜す」

科学的な装置と言われても、
どうにもまだ話があまりにも漠然としている。
いったいどんな装置によって、私の何が見られると言うのだろう?

「その装置っていうは、今までの私の人生の様々な情報を入力して、
もし私が別の選択肢を選んだ場合を類推、
つまり、シミュレートするというような装置なんですか?」

ここで、タカハシ女史の営業的な説明に
すっかり辟易していた表情の博士が口を挟んだ。

「いえいえ、そんな玩具みたいな装置ではありません。
私は、物理学を専攻している研究者です、時間と空間に関する。
実はこれ・・・」

博士は、先ほどタカハシ女史が隠れていた機械を
書類を挟んだボードでポンポンと叩いた。

「ある大手のメーカーからの依頼で作った試作品なんですが、
どこでどう設計を間違ってしまったのか、
本来の依頼された用途とは、まるで違った装置ができてしまったのです。
まあ、これはこれで、ノーベル賞級の物凄い発明なんですが、
いかんせん依頼主からは、お金は取れません。
研究費、制作費もかなり掛かってますから、
現在、別の企業にこれを売り込んでいるんですが、
契約に至るまでにはいろいろな障害があるんですよ。
で、遊ばせておくのもなんですし、武士の商法よろしくこんな会社を作って
糊口を凌いでいるという次第なんです」

私は、博士の「武士の商法」という言葉を聞いて、
客である私への博士らの妙な対応に合点がいった。

「この装置の画期的なところは、ここに投影される様々な人生が、
シミュレーションではなく、全てが事実だということです」

「じ、事実って・・・
本当のことって、意味ですか?」

「そう、事実です。
あなたは、パラレルワールドという言葉を耳にしたことがおありですか?」

《つづく》


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posted by maruzoh at 15:43| Comment(0) | ◆ワレナベニトジブタ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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