やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年05月03日

ユメミダケ心中14 男の転の弐


ユメミダケ心中 第14回 男の転の弐 


呂律が回らない。
感情が制御できずに泣き喚き、大量の洟まで垂らし続ける。
論理的な思考ができずに支離滅裂。
まさに酩酊と言っても過言ではないそれまでの恭子であったが、
先程の征一の「結婚」というたった一言が、
膨張してしまった頭の中に立ち込めた真っ白な靄を
みるみるうちにさあっと晴らせていくような、そんな気がしていた。
いや、晴らせるなどという爽やかなイメージではない。
それはむしろ、思いもよらぬとてつもない暴風が俄かに押し寄せ、
靄を吹き払っていったと言う方が相応しいのかも知れない。

しかし、それでも恭子は、言葉を発せられずにいる。
突風の後に立ち尽くす恭子には、
靄が晴れたことにより、目の前に現れた迷宮の全貌、
その複雑に入り組んだ様が、より鮮明さを増して見えるのだった。
出口が見えない、何処だろう。
出口など最初から求めていないはずの恭子が、
それでも出口を捜してしまうのは、
これも生への執着、本能なのであろうか。

チリチリという音七輪のが、静けさをいや増す。
静寂の後、恭子がやっと口を開いた。

「は、ははは、あんた、しょ、正気なの?
な、何考え、てんのよ、ま、全く、馬鹿じゃないの?」

それは、笑いとは言い難い引き攣った表情と口調であり、
誰かに聞かせると言うよりも、まるで独り言のようにしか聞こえなかった。
征一は、俯いたまま、これに応えずにいた。

やがて大きく息をついた恭子が、今度は、はっきりとした口調で言った。

「あ、あんまり馬鹿馬鹿しいんで、驚いちゃったじゃない。
ホント、いい加減にしてよね。
で、でもね、アタシには、あんたの本心なんてお見通しよ。
あんた、あんな馬鹿なこと突然言って、
何とかアタシが死のうとしてるのを思い止まらせて、
自分も死なずに済ませようって、
どうせ、どうせその程度の魂胆なんでしょ、違う?
笑っちゃうわ、猿知恵以下よ」

征一は顔を上げて、恭子を見て笑おうと努力したが、
恭子以上に引き攣ったその表情は、
とても笑顔とは言えない実に奇妙なものだった。

「は、ははは、猿知恵か・・・
そうかな?
た、確かにそうかも知れない。
正直、そんな気持ちが、あるのかも知れないな、ホントは。
で、でも・・・
い、いや・・・

こ、怖いな、確かに。
この期に及んで、ははは、僕ビビッてますね、完全に。
はは、おかしいなあ、さっきまでは、
本気で死ぬ気だったんだけどな。
ついさっきまでは、こんなに怖くなかったのに。
な、なぜなんだろ、おかしいな・・・」

征一の眼には一瞬間恭子が落胆したかのように映ったのだが、
それが何に対する失望なのかを考察するには、
今の征一は、なぜか異様に怖気づき過ぎていた。

「で、でも、責任は取ります。
あなたが、食べるんなら、当然、僕も食べます、一緒に。
ち、誓います、はい」

2人は見つめ合ったまま、また沈黙してしまった。
風が少し吹いてきたのだろうか。
山の木々のざわめきの後、梁の辺りからみしりと音がした。
静寂を破ったのは、またしても恭子だった。

「アタシ、食べるなんて、言ってないわよ。
毒キノコは嫌だってさっきからずっと言ってんでしょ。
それにしてもあんた、言うに事欠いて、け、結婚だなんて、
なんで、そんな馬鹿げたこと、急に言い出したの?
どうせ延命の為の口からでまかせなんだったら、
あんな見え透いた白々しい嘘じゃなくって、
あんたも、もっともらしい嘘つかなきゃ、駄目よ。
ははは、とんだお笑い種だわ」

征一は、眼を剥いた。
首をぷるぷると左右に大きく振った。
そして、身を乗り出して叫ぶように言った。
必死だった。

「ち、違います、それは、違う。
確かに僕は今、怖がってます。ビビってます。
それは事実です、認めます。
で、でも、だからと言って、その気もないのに、
延命の為だけに結婚してくれだなんて言った訳じゃない。
違うんです。
信じてください。
自分でも良く分からないんですが、
あれは口を衝いて出てしまった言葉だった。
そして、そしてですよ、
今になって、やっと気づいたんですが、
こんな風に僕が、本当に死ぬのが恐ろしくなってしまったのは、
結婚してくださいっていうその言葉を、
自分でも思いがけずあなたに発してからなんです。
あなたに結婚を申し込んだ、その瞬間からなんです」

風が吹いたのだろうか。
木々のざわめきは聞こえなかったが、
天井の梁がまた、みしりと軋んだ。

《つづく》


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posted by maruzoh at 09:53| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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