やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年04月09日

ユメミダケ心中10 男女の承の参


ユメミダケ心中10 男女の承の参 


征一は恭子と出会った当初、
何とか母親の病床に連れて行きたいとの一念から、
とにかく恭子の言うことを従順なまでに認める様に努めており、
身勝手な言い分とは思いながらも恭子の全てを肯定していた。
これは、それまであらゆる勝負に負け続けていた恭子に
思いがけない、ある変化をもたらしていくことになる。
自信である。
恭子がサイトに書き込むコメントの類などは、
そのほとんどが、排他的で合理性に欠ける低級な文章で、
根源は自信の無さからくる負け犬根性に根ざしたものと類推され、
他人から見たら不愉快極まりない愚痴やボヤキのようなものなのだが、
征一はそれに対して一つ一つ丹念に、
「うん、わかる。君はちっとも悪くない」という返答に終始。
それを執拗なまでに繰り返した。
当初、あまりの優しさにむしろ警戒をしていた恭子であったが、
同意されて気分が悪い訳も無く、これが1週間以上続くと、
徐々に「そうよ。私はちっとも悪くないのよ」という具合に変化していった。

恭子の如く真の実力の無い人間にとって、
自分に盲従する存在が突如出現するというのは、実に危険である。
本来個人の実力が努力もせず俄かに上がることなどあり得ようも無いのだが、
自分より下位の存在ができる、つまり序列ができることにより人間というものは、
自分の実力が上がったものと勘違いしてしまうのである。
年功序列で昇進したのに、急に威張りだす馬鹿な管理職が良い例である。
与えられた権威は、真の力足りえない。
そしてご多分に漏れず恭子にも、明らかに実力の伴わない自信が生まれた。
恭子は、暫くすると女王さま気取りで振舞い始めた。
全く勘違いも甚だしい。

しかし、その自信は、実に脆い。
その自信が通用するのは、当たり前であるが世界で征一ただ一人だけであり、
征一以外の日常は今までとなんら変わらぬ負け続けであり、
むしろ恭子は冷たい世間と暖かすぎる征一とのギャップにより、
周囲に対して今まで以上に不満や不安を覚えてしまうようになった。
恭子は高みを知ったことにより、己の低さを再認識してしまった。
底辺にいてもじっとしてさえいれば何事もないのであるが、
持ち上げられてから底辺に落とされれば、痛みを伴うものである。
挙げ句、恭子は様々な混乱を来たし、
心中を画策するにまで至ってしまったのであるが、
当初征一は、死ぬ気など毛頭あるはずも無かった。
恭子に近づいたのは、利用しようとしていたに過ぎないのであり、
病床の母の元に連れて行けさえ出来れば良いのだから。
しかし母が死に、もう恭子などを繋ぎ止める必要もなくなったにも拘わらず、
母を失ったという喪失感がそうさせたのか、
なぜか征一は、恭子と連絡を取り続けていた。
そして、そのうち征一は、漠然とながらも、心中をしてもいいかもしれない・・
と、そんな風に思うようになってしまっている自分に、
気がついていた。

しかし、自然、母親のために我慢を重ね媚びへつらっていた当初とは、
その物言いは、多少変わってきていたかもしれないし、
盲従していた時に比せば、30回に1回位は反論したかも知れない。
いつか恭子が征一の印象として言っていた
「包容力があるように見せかけて実は傲慢」というのは、
この辺りの変化を指して言っていたのかもしれない。


「あ、あの、ちょっと言ってもいいですか?」

情けない話だが、これが征一の切り出し方の精一杯だった。
恭子は、先程の手拭いを征一の手から再び奪い取って、
また、大きく「びいいいぃぃぃぃぃっ」と洟をかむと、
それを丸めて「なによ」と、力無く応えた。

「僕、今まで、女性と会話なんかした事なくって、
慣れてないものですから、気が効かなくって、ほんと、すみません。
友達と呼べる人もいないし、学校でも浮いちゃってるし。
でも・・・」

「でも?」

「・・・・」

征一は、恭子の問いには応えずに、これで察してくれという意味なのか、
風呂敷を解いて七輪を卓上に上げると、その中から煉炭を取り出し、
底に固形燃料を3つばかり放り込んでライターで火を点けた。
満遍なく火が回ったのを確認すると、征一は再び網をかけて、
その上に煉炭を乗せた。

「アウトドアのサイトに出てたんです。
こうすれば、簡単に煉炭に火がつくんだって・・・」

沈黙の中、チリチリと煉炭が焼ける音と2人の息遣いが聞こえる。
どうやら、ようやく煉炭の底が少し赤くなってきたようだ。
征一は、それを見て網の上で煉炭の上下をひっくり返すと、
無造作にポケットからキノコを4つ取り出した。
言わずと知れた、先ほどの毒キノコ「ユメミダケ」である。
それを見つめる恭子の涙と洟は、いつしか止まっていた。

「アタシ、あんたが思ってるほど馬鹿じゃないいのよ。
アタシが気がついてないとでも思ってるの?」

恭子が始めて見せた氷のような表情に、
征一の心臓がどきりと一瞬間、収縮した。

《つづく》


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posted by maruzoh at 14:57| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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