やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年04月07日

ユメミダケ心中9 男の承の弐


ユメミダケ心中9 男の承の弐 


「な、なんて身勝手な人なんだろう」

征一は、狼狽しつつ、心の中、訴え、そして悶えていた。
それは勿論、勝手気ままな独自な論理で泣きじゃくり、
大量の洟を垂らし続けている眼前の恭子に対してである。
しかし、その思いは、いつもの如く喉の奥に引っかかってしまい、
なかなか音声として発せられない。

征一は、今回の旅行に際して、
異性である恭子にかつて経験のない程に気を使い、
これでも目いっぱい明るく振舞っているつもりであった。

そもそも、征一にとって女性というものは、
全くと言っていいほど縁がない存在であり、
それは、中年オタクの現在のみならず、
幼年から始まり少年、青年時代の過去の如何なる時期においても、
誇張するわけではなく、本当に全然縁がなかったのである。
従って征一は、無垢、まっさらであった。
30半ばにして純粋な童貞であった。
しかもここ数年は、その童貞であるというコンプレックスの壁が、
更に女性との交流を加速度的に避けるようにさせ、
悪循環からその距離を遥か彼方、遠のかせてしまっていた。

征一とて、この状況を打破せんと深夜の歓楽街、
万札を握り締めてネオンの狭間を彷徨したこともなくはなかったが、
躊躇の末ことごとくあと一歩の踏ん切りがつけられず、
結果、毎回目的を遂行することは出来ないまま、
産まれたままの綺麗な体で今日を迎えてしまっている。
そんな征一であるから、勤務先である男子高校においても、
教育上は不埒である筈の不純異性交遊をする生徒に対する視線も、
年端もいかぬ若い身空であるにも拘わらず大したものだという
羨望、畏敬の眼差しに、自然と、相成ってしまうのである。

学校と言えば征一は、1度だけ担任を任されたことがあった。
しかし、征一自身が協調性というものに極めて乏しい上、
自分の興味のあること以外は意見というものを全く持たず、
自分にとって無価値な問題は、ひたすら迎合、放置してしまうが故、
征一学級の生徒たちは、自由と権利というものを完璧に履き違えた。
結果、学級は完全に崩壊した末、枚挙に暇のないほどの不祥事が噴出。
創立史上、年間最多退学者数を更新するという不始末を誘引し、
それ以来征一は、副担任の職にすら就かせてもらえずにいる。

当然、学校側からすれば、こんな教育者失格な中年オタクは、
早々にクビにしてしまいたいと考えるのが当然で、
ありとあらゆる嫌がらせを画策し征一を自主退職に追い込もうとしたのだが、
もともと価値観の相容れない他者が己の価値観で嫌がらせをしたところで、
学校側の意図の半分も征一には伝わらず、例え伝わっても、
所謂、蛙の面にションベンという結果に落ち着いているのである。

征一は、教師を続けていたいとは思っているが、
さりとて教師という職業が自分に向いていると思ったことはなかった。
しかし、他の仕事、例えば、ハンバーガーショップの店員として
「いらっしゃいませ〜」などと自分の意思とは無関係に、
マニュアル通りの笑顔を常時提供し続けることなど、
征一には一生かかっても出来ないと気づいているのである。
だから征一は、教師が生徒に比して取り立てて偉いとも思っていない。
むしろ、それしか出来ないからこそ学校の圧力をも屁とも思わずに、
人目を気にすることなく教職にしがみついているのだ。
それを日常で正直に体現している征一は、生徒から小馬鹿にされつつ、
意外にも隠れた人気があるというのは、皮肉と言えば皮肉なものである。


そんな征一が、一転、下世話な出会い系のサイトの類に登録したのは、
それこそ清水の舞台から飛び降りるような大いなる決断であったのだが、
そこには、止む無きに至るような事情があった。

数ヶ月前。
ずっと病床に伏していた、たった一人の身寄りである母は、
いよいよもう余命幾許も無い、余命半年という宣告を若い担当医師より、
まるで朝礼での校長の訓示のような抑揚のない声で聞かされたのである。
午前の回診の最中のことであった。
であるから、母は、小便を貯める塩化ビニール製の袋を取替えながら、
征一は、その傍らで丸椅子に腰掛けて冷めたコンビニ弁当を食いながら、
心の準備ができぬままその重大な事実を聞かされた。

母は、口惜しいと泣いた。
重大なことであるのだから、もっときちんとした場面で告げて欲しい、と。
お前も悔しいだろうと、母は征一に同意を求めたが、
征一には、そんなことは、全く思いもよらなかった。
ただ、先程の恭子の「晴れ舞台」の話を聞いた時、
この時の母の話と涙を思い出した。
これが女性の感覚なのかと。

翌晩征一は、やや落ち着きを見せた病床の母に
その微かな握力であるはずの小さな手でしかと握られるまま、
「死ぬ前に、お前の嫁の顔が見たい」と懇願された。
それまで母は、決して幸せとは言い難かった。
無学な父親に理不尽な理由で毎晩のように殴られ、
その父親が亡くなった後は、一人で泥にまみれて家計を支えた。
それ故、征一の教師としての就職を母は尋常ではなく歓喜してくれた。
だから征一は、
今まで苦労をかけた母の願いは、何としても叶えてやりたいと思った。
切に思った。
しかし、残された時間は僅かである上に、
交際相手は愚か、異性の友人すらない征一には、
それは、不可能であると言わざるを得なかった。

そこで、征一は、一か八かの大きな賭けに出たのである。
それが、恭子が撒き餌をした出会い系サイトだったのだ。
結婚云々はさて置いてでも、母親のまだ意識にあるうちに、
取り敢えず、病床に誰か女性を連れて行くことなら、
もしかしたら、可能かもしれない・・・
征一は、自身の魅力の無さを痛いほど知っていたので
なるたけ魅力の乏しそうな、誰にも相手にされないような女性、
つまり、競争倍率の低い女性を選択した。
それが、眼前で泣き、そして洟を垂らす恭子であった。
罠を仕掛けたつもりの恭子であったが、
その実、征一は完全な籠の鳥というわけではなかったのである。

しかしながら、征一の計画は、早々に頓挫してしまった。
征一の母は、唯一の、ささやかな願いを叶えることなく、
医師の診断より4ヶ月も早く、唐突に亡くなってしまったのである。
医師の診断とは全く無関係な病、急性心不全で。
酷く暑い夏の盛り、
身寄りは征一一人だけという、寂しい葬儀であった。

《つづく》


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posted by maruzoh at 15:56| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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