やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年04月06日

ユメミダケ心中8 女の承の弐


ユメミダケ心中 女の承の弐


借金苦であるとか、病苦であるとかが原因の無理心中などは、
所詮迷惑極まりない身勝手な殺人後の自殺以外の何物でもなく、
その行為に何ら心動かされる要素も持ち得ないが、
心中という言葉には、誰しもが何かこう、
心にぐっと去来する「何か」があるのではなかろうか。
無理(矢理)という修飾語がつかない純粋な心中であるのだから、
当然それは、お互いの合意に基づいてのみ執り行われるものであり、
抜き差しならぬ事情により今生では成就せぬ愛を、
来世で結ばれたいという一途な思いから行われるものである。
それは、ある意味、これ以上具現化できない究極の愛であり、
全てを、そう、資産も、地位も、名誉も、家族も、
そして唯一無二の互いの生命をも捨てて為す、
自らが記する人生と言う名の叙事詩の悲しい最終章なのである。

では、この征一と恭子の2人はどうであろうか。
確かに、合意はある。
あるように思われる。
しかし、その合意は、先に述べたような繊細で耽美的なものとは程遠く、
とても愛に対する強固な意志に基づいているとは言い難い。
なぜなら、この企てはそもそも、
1人で死んでゆくにはあまりにも寂しく、
且つ又、自分だけでことを成し遂げる勇気も根性も無い恭子が、
道連れを求める為出会い系サイトで「募集」をし、
征一がそれに「応募」をした間柄に過ぎないのである。
そう言う観点で見れば、この2人が計画しているのは、
厳密に言うと心中ではなく、恭子の教唆による2つの自殺の集合とも言える。


溢れる涙が止まらなくなってしまい遂には両手で顔を覆ってしまった恭子に、
征一はハンカチでも渡した方がいいかと思ったのだが、
生憎持ち合わせが無く周りを見回すと、浴衣と丹前の上に
白地に紺で「かめや鉱泉館」と染め抜かれた手拭いが目についた。
征一はそれを手に取ると、恐る恐る恭子に差し出した。

「あ、あの、これ」

はっきり言って、征一は周章狼狽していた。
目の前で女性が泣き崩れるシチュエーションなど、
今までの人生の中では、一度として無かったものだから、
征一は正直、どう対処していいのか分からなかったのである。
恭子が呆れたように叫んだ。
酔って呂律が回っていない上に、支離滅裂である。

「て、手拭いぃ?
風呂敷の次は、手拭い?
あんた、何考えてんの?
これから死のうって時なのよ。
一生で1度きりの大事な時なのよ。
それを、風呂敷だとか、手拭いだとか、
デリカシーが無いにも程があるわよ」

恭子は手拭いを引っ手繰るように征一の手から奪うと、
びいいいぃぃぃぃぃっと、大きな音で洟をかんでから、
征一にそれを投げ返してみせた。

「酔っぱらっちゃったから、言うわけじゃないわよ。
いい?
アタシね、今まで、
良いことなんか、これっぽっちも無かったわ。
ホント、全くと言っていいほどよ。
そりゃそうよね。
ちっとも美人じゃないし、性格もこんなだしね。
それでね・・・。
それで、もう生きていたって仕方ないって思ったの。
本当はいけないことかもしれないけど、
思っちゃったのよ、アタシ、そんな風に。

でね、ずっと駄目続きだったけど、
最期くらいは、劇的に終わろうと思ったのよ。
アタシだって、一生に一度くらいは、
スポットライト浴びたっていいでしょ?
いいわよね?
終わり良ければなんとやらって言うじゃない。
これがいいことかどうかはわからないけどね。
わからないけど、でも、これだけは言えるわ。
アタシにとってこれはね、
人生の最後を飾る一世一代の大きな晴れ舞台だったのよ。

そ、それが、それが何よ、あんた。
待ち合わせ場所に現れた錆の浮いたポンコツの軽から始まって、
こんな小汚いオンボロ旅館に、何の取り柄もないチンケな滝。
それに何より、心中相手のあんたときたら、どう?
七輪だの、風呂敷だの、手拭いだの、
センスもデリカシーも、欠片さえ全く持ち合わせない中年オタク。
しかも、よりによって毒キノコのオタクときてる。

あんた、あの毒キノコ取って本当に嬉しそうだったわ。
しかも、それが使えるんだものね。
そりゃあ、楽しみでしょうよ。
でもね、いいこと?
アタシはね、
感情の無い、実験の対象物じゃないのよ。
いい加減にしてよ」

自分の言葉が感情を加速させ、暴走させたのだろう。
恭子は先程からの止め処なく流れる大粒の涙に加え、
洟まで大量に垂らして征一の顔を睨み付けている。
征一は、手拭を手渡すべきか悩んでいた。

《つづく》


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posted by maruzoh at 08:47| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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