やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
   maruzoh live.jpg

名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年04月01日

ユメミダケ心中7 男女の承の弐


ユメミダケ心中 男女の承の弐

10分以上も経ったのに、まだ征一は戻らなかった。
恭子は、腹立たしさと情けなさと不安と、
そして、自分では気づいていないであろうほんの微かな嫉妬から、
飲み慣れないはずのビールを随分と飲んでしまった。
先ほど仲居が持ってきたばかりの大瓶の残りはもう、
ほんの僅かしか残っていない。
こんなに飲んだのは、いつ以来だろうか。

と、その時、宿の仲居らに見咎められるのを憚ったらしく、
七輪を濃い群青色の風呂敷包みにくるんだ征一が、
トッ、トッ、トッと足音を忍ばせて
まるで空き巣狙いのように階段を上がってきた。
風呂敷包み?
確かに征一は、間もなく中年に手が届きそうな
とても若者とは言えない年ではあるし、
実用的と言ってしまえばその通りなのだろうが、
この期に及んで、風呂敷包みをチョイスするというのは、
このハズレくじ男は、一体どういうセンスをしているのだろう。

「お待たせしてすみません。
配膳の時間帯らしくて、なかなか人が途絶えなくって・・・
七輪を見られたら怪しまれると思ったんで、
人が空くまで駐車場の辺りで時間を潰してました」

呂律が怪しくなってきた口調で、恭子が吐き捨てた。

「ふん、どうせまた、キノコでも探してたんでしょ」

征一は、七輪をテーブルの脇に下ろして座ると、
ぽりぽりと頭を掻きながら苦笑いをした。

「よ、よくわかりましたね。
駐車場は北側で日陰が多いんで、
何か変り種はないかと物色してたんですよ」

「で、つい夢中になってしまった、という訳?」

「い、いやぁ。
何から何まで、お見通しなんですね・・・」

当てずっぽうが、ただ当たっただけなのだが、
妙に機嫌が良くなったような気がしているのは、
明らかに恭子のアルコール摂取の許容量が
そろそろ限界を超えようとしているからだろう。
いや、もう既に、本当は限界を超えてしまっているかもしれない。
恭子は、手の甲で口元のビールの泡を拭ったのだが、
征一にはそれが、クスリと笑ったようにも見えた。

手酌で注ごうとビール瓶に手を伸ばした恭子に気づき、
征一は慌ててそれを奪い取ると、
うやうやしく掲げてから両手で恭子のグラスにゆっくりと注いだ。
泡はほとんど立たずに、グラスの3分の2ほどで大瓶が空になった。

「お酒、強いじゃないですか。
ビール、もう1本頼みますね」

「私は、もうだめ。
これ以上飲めやしない。
ビールなんて、もう、いいわよ」

真っ赤な顔の恭子が上目遣いで見ている。
征一は、ちょっと言い難そうだった。

「い、いえ、僕、まだ最初の1杯しか飲んでないんで・・・」

「ふふふ、嘘よ、嘘。
私、そんなに飲んでないわよ」

今度は、確実に、恭子が笑った。
征一は、先程の滝への道すがら
坂の途中で上気して頬を染めた恭子に感じた「生」とは、
また違った、こう、もっと生々しい「生」を感じていた。
征一は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「僕はもう1本ビールを頼みますが、
どうです、熱燗にでもしましょうか?」

恭子は、顔の前で右手を左右にしながら言った。

「ふふふ、だめだめ。
これ以上飲んだりしたら、
もう、死にたくなくなっちゃうじゃない・・・」

軽口を叩いたつもりだったのだが、
恭子は、自分の口から飛び出たこの言葉に驚いて、
目を丸くしたまま、征一の顔を凝視し続けてしまった。
しばしの間、2人を静寂が支配していたが、
やがて、恭子のその丸く見開かれた瞳から、
大粒の涙が次々と溢れ出たと思うと、
幾筋もの線となって、頬から顎に流れ落ちていった。

恭子は涙の流れるに任せたまま、動かなかった。
征一は、恭子から目を逸らさなかった。
流れ落ちてはまた溢れる恭子の涙を見て、
征一は、道行の夢見の滝を、思い出していた。

《つづく》


 ※本サイトの作品は、アルファポリス「webコンテンツ」、にほんブログ村「現代小説」ランキング、人気ブログランキング「現代小説」に参加しています。宜しければ、クリックお願い致します。

 人気ブログランキングへ  にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ

posted by maruzoh at 08:16| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

検索
 

title.gif
maruzohは、アートビリティ作家さんを、応援します!

●ご連絡先● 〒165−0023 東京都中野区江原町2−6−7
社会福祉法人東京コロニー アートビリティ事務局内
TEL 03−5988−7155/FAX 03−3953−9461
●営業時間● 平日 9:00〜17:20 / 土・日・祝日 休業日