やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年03月31日

ユメミダケ心中6 女の承の壱


ユメミダケ心中 女の承の壱


「さて、七輪をクルマから持ってくるとしましょうか」

征一は、そう言って立ち上がったが、恭子が慌ててそれを制した。

「えっ? 練炭を焚くのは、クルマの中じゃ・・・」

「ええ、最初はそのつもりだったんですが、
思いの外、この部屋が狭かったのが幸いでした。
年代ものの宿屋にしたら、ほぼ密閉もされてますしね。
なんたって隠しアイテムの、ほら、これがありますから」

征一は、さきほどのユメミダケを仕舞い込んだポケットを
大事そうにポンポンと軽く叩いてみせた。

「そうですね、こいつを2本ずつぐらい食べておけば、
丸1日は目覚める心配はありませんからね。
上手いことすれば、練炭の力なんて借りることなく、
眠ったままで、僕らの目的を達せられるかもしれませんよ」

自分が望んだこととは言え、
こんな話題を目を輝かせて嬉々として話す征一のことが、
恭子は相変わらず理解出来ず、とても不思議だった。

(この人、私のこと、モルモットか何かだと思ってるんじゃないの?)

少なくとも恭子にとっての人生の終焉というものは、
神聖であり、もっと意義深い崇高な儀式であるべきで、
恐らく恭子以外の世間一般の人たちも異を唱えはしないのだろうが、
征一の今の話ぶりときたらまるで、
楽しみにしていた理科の実験でも始めるような物言いである。

「七輪、取ってきますから、先に飲ってて下さい」

征一は、ドアをバタンと閉めて出て行ったが、
階段で征一がすれ違う仲居に朗らかに言い放った
「ビール、もう1本持ってきて」という声に恭子は、
また一つ、深く嘆息するのであった。

(こんなはずじゃ、なかった・・・)

悲劇のヒロインを気取ろうなどとは思ってはいないが、
今、自分が置かれている舞台設定は、
小説やドラマに出てくる心中とは、明らかに違っている。
そしてそれは、間違いなく征一のせいである。
恭子は、手酌でビールをグラスに半分ほどつぎ足すと、
それを一気にくっと煽った。
飲み慣れない恭子には、喉が焼けるように熱いし、
ビールは苦くて叶わない。

今までのほぼ30年の人生は、
恭子にとって全く納得の出来ないものだった。
子どもの頃から思い描いたことは、何一つ願い通りにならなかった。
それなりに努力はしたつもりだったが、いつもギリギリで福を逃した。
時には、鼻差の写真判定の末の負けや
延長戦での逆転サヨナラ負けという実に惜しい勝負もあったが、
最終的な結果だけを見れば、ことごとく負けであった。
連戦連敗、黒星街道一直線である。
結果、恭子の歴史は妥協と迎合の歴史となった。
ところが望みのランクを落としても、なぜか負けはついてきた。
自分ではかなり落としたつもりでも、やはり駄目だった。
貧乏神か疫病神に魅入られたかのようだった。
ごく稀に勝った時でさえ、いつ判定が覆されるのだろうと不安で、
心の底から喜ぶことがどうしても出来なかった。
びくびくと脅えてばかりで落ち着かない。
それはある意味、負けた時以上に苦痛であった。

恭子は、なぜ自分ばかりが負けくじを引き続けるのかと、
悩んで、泣いて、苦しんで、諦めた。絶望した。
そして、こんな人生なんかには、もう見切りをつけたと決意して、
今日、こんな山奥の宿にまでやって来たのに。

(本当の最期の最期まで、私はなんて運のない女なんだろう)

最後に掴んだくじもまた、とんだ大ハズレ。
全くのスカであった。

恭子が空になってしまったビール瓶をぼおっと見つめていると、
仲居が「お待たせしました」と、2本目のビールを盆に乗せ、現れた。

《つづく》


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posted by maruzoh at 15:34| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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