やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年03月30日

ユメミダケ心中5 男の承の壱


ユメミダケ心中 男の承の壱


旅館に戻ってからも二人は、相変わらず言葉少なだった。
往復に小一時間も要してしまった滝は、
高低差10メートルほどのこれといって特徴のない滝で、
恭子はやはり、行くだけ無駄だったと腹を立てているようだ。
久し振りの運動で靴擦れでも起こしたと見えて、
窓辺にもたれて無愛想な顔で盛んに踵の辺りを摩っている。

コンコン

ふと、乾いた音で合板のドアがノックされ、
仲居が「夕食をお持ちしました」と膳を重ねて現れた。
征一は、「ビールも1本お願いします」と頼むと、
頷いて皿を並べる仲居に、あの滝には名があるのかと尋ねてみた。

「はあ、地元の人間は、夢見の滝と呼んどります」

仲居は、御櫃を恭子の側に置きながら、そう応えた。

「夢見・・の滝、か」

誰に言うともなく、征一が呟いた。
思いがけず恭子が、「夢見の滝」と、その言葉をなぞったが、
口を衝いて思わず出てしまったのが恥ずかしいようで、
照れ隠しに御櫃の中の米を盛んにかき混ぜ始めた。

ほどなく、追加の瓶ビールとグラス2つが運ばれてきた。
征一は、栓を景気よく抜くと、
自分のグラスに注ぐ前に「さあ」と恭子に勧めた。

「あたし、あまり強くないから・・・」

「いや、今晩は、飲んどいた方がいいでしょう」

征一の言葉には、なにか含みがあったが、
一瞬の戸惑いの後、恭子は意外なほど素直にその言葉に従った。

「じゃ、乾杯」

グラスをカチンと鳴らせて、
征一は一息で、恭子は半分ほどグラスを空けた。

「ふうう、美味い。
やっぱり運動の後のビールは、一味違いますね。
ちんけな滝でちょっとがっかりしたけれど、
ビールを美味しくいただくのには、多少なりとも貢献した訳だ」

グラス半分で、もう既に頬に赤みの増してきた恭子が、
征一には笑ったように見えたが、きっと気のせいだろうと思いなおした。
川魚の塩焼きに山菜の天麩羅、地鶏の網焼き。
いずれも地のもので、新鮮で美味しかった。
ところが、征一が妙なことを言い出した。

「キノコ料理がありませんが、キノコ、お好きですか?」

確かに、旬であるはずなのに、なぜかキノコは食卓に無かった。

「別に、嫌いじゃないけど」

恭子の言葉に征一は、にこっと笑うと、
ポケットからキノコを数個取り出した。
シメジに似ていたが、若干色が薄めで大きさも一回りほど大きい。

「それって・・・」

恭子が指差した。
征一は、キノコの石突の部分を摘まむと、
「ほら」という具合に恭子の眼前に差し出してみせた。

「ユメミダケ。
滝の途中の切り株のところ、ほら、休憩した場所。
あそこに群生してたんですよ」

「ああ、あの時」

恭子は、切り株のそばで屈んでもぞもぞやっていた征一を思い出した。

「美味しいの?それ」

「いえ、これは食用じゃありません。
中枢神経に作用するシロシビンを持っている
ヒトヨタケ科ヒカゲダケ属のキノコの一種です。
まあ、簡単に言ってしまうと、神経系の毒キノコです」

キノコを手にし掛けてていた恭子は、
毒キノコと聞いて、「ひっ」と言うと本能的に手を引っ込めた。

「た、食べると・・・?」

「嘔吐、腹痛は、他の毒キノコに比べて軽度。
しかし、その名の通り猛烈な睡眠効果があり、
下手をすると昏睡したまま、死に至ることもある。
日本では、それほどポピュラーではありません。
最初見て、そうじゃないかとは思っていたけれど、
さっき滝の名前を聞いて、確信しました」

征一は、キノコを掲げて、電灯にかざして見せた。
シメジだと思っていたキノコが、物騒な解説を聞いただけで、
全く違った風に見えるのが、恭子には不思議だった。

「キノコに詳しいのね」

「生物の教諭をしています、男子高の。
毒キノコの研究は、ただの趣味ですが・・」

征一のオタクっぽさは以前より感じていたが、
まさか趣味が毒キノコの研究とは・・と、恭子は嘆息した。

「で、このキノコを、どうするつもりなの?」

「七輪で焼いて食べましょう。
睡眠導入剤の代わりに使うんです。
なかなかいいアイデアでしょう?
まあ、決して美味くはないし、多少苦いらしいですが・・・」

恭子は、征一の顔を暫く凝視してから、
ユメミダケに視線を落とし、
そして再び、征一の顔に視線を戻した。
こんなに具体的な話をしているのにも拘らず、
相変わらず征一からは、死と向き合っている者独特の雰囲気が、
全然感じられないのはなぜだろうと、恭子は思った。

《つづく》


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posted by maruzoh at 16:14| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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