やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
   maruzoh live.jpg

名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年03月12日

ユメミダケ心中2 男の起


ユメミダケ心中 第2回 男の起 


滝への沢沿いの細い坂道は、杉の木立の中。
沢から上る湿気のせいなのであろう、
岩だらけの登り勾配だけでも難儀するのに、
足場の苔むした岩で何度となく足を滑らせた女は、
その度「もうっ」と、イラついたように声を上げるのだった。
3メートルほど先からその度に振り返る矢野征一は、
もしも女が、この「もうっ」という発音、或いは、その際の舌打ちを、
本心と違(たが)えてでも「キャッ」と言うことができていたなら、
女のこれまでの人生も現在(いま)とは多少なりとも違っており、
そしてまた、きっとなにも、こんな惨めな結末を迎えずに済んだろうにと、
なぜか、女の父親にでもなったかのように思うのだった。

征一は、未だに女の名前すら知らなかったし、
自身の名前も女には告げていなかった。
ネット上のあるサイトで知り合った2人は、
それまでお互いをハンドルネームで呼び合っていたのだが、
こうして実際に会ってみると、
30代半ばの男が、同じくらいの年齢の女性を掴まえて、
決して似合ってもいない「miu」さんなどという名を
とても気恥ずかしくて呼べるものではない。

女は、魅力がなかった。
男対女という性的な魅力だけではなく、
一個人としての人間的な魅力も希薄だと征一は感じた。
話し言葉は、数が少ない上にそっけなく、しかも攻撃的で、
それでいて口ごもる様で聞きづらいので、
何を言わんとしているのか図りかねる場面も少なくなかった。
そんな際、征一は、女の言うことに曖昧に返事をしていた。
しかし、訳のわからないまま押し切られるのも癪であるし、
決まって最後は、もう一度説明を求めるような口調になってしまった。
そんな時、決まって女は「ふん」と鼻を鳴らした。
征一は、この女は自分のことを嫌っているのだろうと思っていた。
しかも、かなり。

滝への道は、思いの外勾配があり、険しかった。
浴衣に丹前で来ていたら、とうに引き返していたろう。

「大丈夫ですか? ちょっと休みましょう・・・」

征一は、振り返って、やや離れてしまった女を待った。
女はスッピンの額に薄っすらと汗をかいており、
軽く息を弾ませて、頬には微かに紅みがさしていた。
女は、征一を睨みつけるような上目遣いで見やったが、
問いかけに対する返事は無かった。
征一は、ふと、意外な印象を受けた。
ネット上での書き込みや、その後のメールでのやり取り、
それに、感情を押し殺したようなほぼ無言の時間、
それらの女からは、全く「生」というものが感じられず、
ほんの数十センチ横に座っていた車中にいたときでさえ、
とても現実世界の住人とは思えなかったのであるが、
今、ここで、彼女は確かに存在し、生きているんだと、
征一は始めて実感することが出来たのだった。

しかし、それも皮肉なものだなと、征一は思った。

(だって、そうじゃないか?)

見ず知らずといっていい、ほぼ初対面の女と
心中の為にわざわざ山奥にまでやってきた自分が、
そこで、その女の「生」を見出したところで、
一体、何の意味があるというのだ。
今晩には、軽自動車に積んだ練炭で、
この世に別れを告げようとしている、そんな2人なのだから。

《つづく》


※本サイトの作品「お取り寄せ救世主」は、アルファポリス「webコンテンツ」、にほんブログ村「現代小説」ランキング、人気ブログランキング「現代小説」に参加しています。宜しければ、クリックお願い致します。

 人気ブログランキングへ  にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ

posted by maruzoh at 12:05| Comment(0) | ◆ユメミダケ心中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

検索
 

title.gif
maruzohは、アートビリティ作家さんを、応援します!

●ご連絡先● 〒165−0023 東京都中野区江原町2−6−7
社会福祉法人東京コロニー アートビリティ事務局内
TEL 03−5988−7155/FAX 03−3953−9461
●営業時間● 平日 9:00〜17:20 / 土・日・祝日 休業日