やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年02月21日

お取り寄せ救世主 第26回


お取り寄せ救世主 第26回


「僕は、こんな風に見えて、意外と手先が器用なんです。
プラモデルとか、今で言う、フィギアみたいな人形作りなんか、
子どもの頃から、結構得意だったんですよ」

飯山君は「意外」と言っていたが、そのイヤミ似のオタク系の風貌は、
「意外」でもなんでもなく、まさに、フィギア職人と言っても誰も否定しまい。
少なくとも私たち夫婦は、そう思った。

「例えば、ええと、鳥人戦隊ジェットマン知ってますよね?
僕が小学校中学年ですよ、3年かな?4年かな?
あの5人を、プラ粘土で作った時なんかは、ですね・・・」

飯山君は、実に気高く、清廉に、恍惚たる表情で言うのであるが、
私も妻も、そのジェットマンとやらが、如何様なものか全く知らぬ訳なので、
「はぁ・・」などと、溜息みたいな曖昧な返事に終始せざるを得ない。

「父は、誇らしげに言ったんですよ。
こいつは大工の子だから、俺に似て手先は器用なんだって。
それこそ近所中に、その人形を見せて回ってるんですよ。
ははは・・・
馬鹿みたいですよね。
血なんか、繋がってる訳ないのに。
本当の親子なんかじゃなかったのにね・・・」

飯山君の言葉を聞いたら、もう、私も、妻も、
相槌を打つどころか、身動き一つ出来ない、
金縛りの様な静寂に肉体も精神も、支配されてしまった。

ぶううううんという換気扇の音の中、
暫くの後、また一つ遠吠えが聞こえたけれど、
ゆあーんとしたテーブルの周りは、相変わらずの静寂のままだった。

その永らくの静寂を破ったのは、
飯山君の思いがけない一言だった。

「あ、あの、ちょっと、
トイレをお借りして、あの、いいでしょうか?」

お母さんの話から逸れて自らの用件になると、
それまで滑らかだったはずの飯山君に、
不思議なもので例の「あのあの」が顔を出す。

「ああ、どうぞどうぞ。
玄関の方に戻って右のドアがおトイレよ」

「では、あの、ちょ、ちょっと失礼します」

カーテンの影でカチャリとドアが閉まる音がした。
飯山君が去ったキッチンに、私たち夫婦は2人残って、
お互いの顔を見つめ合ってしまった。
妻の顔は、結婚以来見たことのない、実に不思議な顔をしていたが、
多分、私のこんな顔を見たのは、妻も結婚後、初めてに違いない。

それにしても、妻の異常とも言える強欲と好奇心の為に始まった
この訳の判らない深夜に及ぶ三者面談は、
キューセーシュの飯山君の出生の秘密に迫るに至って、
彼が救世主であるかどうかという本来の指針を外れて、
何か、違った方向に進みつつあるような予感が、私には抑えきれない。
妻は一体、こんなにこんがらがってしまった今、
何を求め、何を考え、何をせんとしているのだろうか・・・
その妻が、時計を見て言った。

「メシヤマちゃん、遅いわね」

た、確かに、ちょっと長過ぎる。

「だ、大なのかな・・・」

妻がテーブルをドンと叩き、
またテーブルがゆややんと揺れる。

「まさか、あの子あのまま・・
逃げちゃったんじゃないでしょうね」

私たちは、カーテンの隙間を同時に見やった。

「ねえ、あんた、ちょっと見てきなさいよ。
ホントにトイレの中にいるのか、さ」

妻に言われて初めて気づいたのだが、
逃亡、いや脱出、確かにそれは、あり得る。
何せ、飯山君からしてみれば、
いきなり理不尽な脅迫電話に始まり、
巨大な女とその一味に恫喝され、半ば拉致され、
挙句の果てに、触れられたくない過去にまで言及されているのだ。
よく考えてみたら、これで脱出を企てない方が余程おかしいくらいである。

しかし正直なところ、私は、いっそのこと飯山君が、
このまま我が家から脱出してくれればという気持ちの方が、
強いことを否定できなかった。
私とて、これから先の展開が気にならない訳ではないが、
それ以上に、他人の複雑な半生を見るという不安もあり、
しかも何よりも、もう12時過ぎ、草木も眠る丑三つ近くなのである。

「じゃあ、ちょっと見てこようか・・・」

私が椅子から腰を上げかけた、その時だった。

「唄はちゃっきり節 男は次郎長花はたちばな 
夏はたちばな 茶のかおり〜」

言わずと知れた飯山君のケイタイの着うた「ちゃっきり節」だ。
ブウゥゥゥゥンという振動と共にテーブルの下に、
餃子のストラップと一緒に転がっている。

「お、おい。鳴ってるぞ」

妻は大きな体を屈めてテーブルの下に入ろうとしたのだが、
これがどうにも亀の甲羅のようになってしまって、
私は子供のころ見た大映の特撮影画「ガメラ」を思い出した。
それでもようやくケイタイを拾い上げた妻は、
その体勢のまま顎を杓って私にディスプレイを見せる。
登録された番号ではなく数字が羅列されていた。
049−×××ー××××。
妻は、もう1度、顎を杓って見せた。
出ろというのか?
他人の電話で見ず知らずの相手だぞ?
私は、もう1度ディスプレイを見た。

「えっ?」

あることに気がついた私は、思わず声をあげてしまい、
先程のあの黄色い下品なチラシを鷲掴みにして、
四つん這いでテーブルを背負ったままの妻の顔に、
鳴り続けるケイタイとセットで突きつけた。

「救世主派遣センター 埼玉南教会。
電話が架かってきているのは、ここからだぞ!」

《つづく》




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 現代小説 お取り寄せ救世主

posted by maruzoh at 22:24| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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