やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2011年01月19日

お取り寄せ救世主 第10回


お取り寄せ救世主 第10回


私はあまりのショック、あまりのバツの悪さに、
まるで幽体離脱してしまったかのように暫く放心していたが、
なんとか五里霧中の真っ白な霧を掻き分けて、
それまで彷徨しまくっていた思考をやっとのこと
我が家のキッチンで待つ2人の前に呼び戻した。

「な、なんだって?
イエデンが・・、無いって、それ、ホント?
だってそれじゃ、全然、説明がつかないよ。
おかしいなぁ・・・ おかしいよ、絶対それ。
き、君、まさか・・・
この期に及んで、僕らに嘘ついてんじゃないだろうね?
う、嘘つきは泥棒の始まりだよ。
素直になって、本当のこと言わなけりゃ」

自信満々に言ってしまった手前、引っ込みがつかない私は、
まるで彼を冤罪をでっちあげる刑事の取り調べ如く、
気の弱そうな被疑者然とした彼に詰め寄ってしまったのだが、
わざわざ相談に来た彼が、私たちに嘘をつく理由などあるはずもなく、
また、昨今の独居の若者は、ケイタイで事足りる為、
そのほとんどが固定電話を持たないということは、
新聞、雑誌、世間の噂でもよく聞いている話で、
彼が多くの若者同様固定電話が無かったとしても
何らの不思議もないのである。

「す、すみませんが、
本当に、イエデン、無いんです・・・」

「あ、そ、そう。
そうなんだ・・・」

大風呂敷を広げて、探偵風に格好までつけた私であったが、
ここはどう見ても、早とちり、思慮不足、大誤解と、
素直に自らの非を認めざるを得なくなってしまった。
わざわざ階段を息を切らして脱兎の如く駆け下りて、
問題のチラシを取りに行ったことも徒労に終わった上、
手にした証拠を基に周到に積み上げたつもりの仮説を、
「イエデンありません」のたった一言で木っ端微塵に粉砕され、
早いところ話題を変えなければと焦る私に、
思いがけない助け舟を出してくれたのは、妻だった。

「あんた、そのケイタイって、今も持ってるんでしょ。
ちょっと見せてみなさいよ」

「あ、はい」

妻は相変わらず極めて横柄で傍若無人な態度だったが、
恐ろしいことに、彼も随分とそれに慣れてしまった様で、
それほどへどもどすることなく折りたたみ式の携帯電話を
尻のポケットからごそごそと出してみせた。
パールホワイトの何の変哲もないケイタイだったが、
ストラップには、何故か、羽根付き餃子がぶら下がっていた。

「フツーの古いケイタイね、この餃子以外は・・」

妻が餃子のストラップを、指で弾いて言った。

「あ、あの、すみません、僕、宇都宮出身なんです。
だ、大丈夫です、匂いませんから・・・」

宇都宮出身だからと言って「すみません」などと謝る必要はないし、
にんにくの臭いつきのストラップなどあるものかと思ったのだが、
先程の大失態も手前もあるので、
私はツッコミもせず知らぬ振りを決め込むことにした。

妻が順番で回覧しようと私に手渡したケイタイを、
私は鹿爪らしい顔つきで眼線の高さまで掲げて、
角度を変えつつ仔細を観察している振りをして、
「なるほど」とか言いながら、当たり障りの無い、
適当な意見を言おうかと、ちょっと息を吸い込んだ、
まさに、その時だった。

「唄はちゃっきり節 
男は次郎長花はたちばな 
夏はたちばな 茶のかおり〜♪」

「な、なんだ、なんなんだっ?」

突然の振動とちゃっきり節!
あんまり驚いたんで、ケイタイ、放り投げるところだった。
何の脈絡も無く、私の耳元で激しく鳴り響くちゃっきり節は、
なんと、キューセーシュの青年イヤミ君のケイタイの着うたフルであった。
楽曲は、まだ心臓の鼓動を押さえきれない私の手の中で振動を伴って鳴り続け、
既にサビの部分に達しようとしている。

「ちゃっきり ちゃっきり ちゃっきりよ
きゃあるが鳴くんで 雨ずらよ〜♪」 

着うた如きにかくも驚かされ、
またもや醜態を晒してしまった私の中に、
照れ隠しにも似た怒りが、沸々と込み上げてきた。

「君さぁ、栃木県人が、なんで、ちゃっきり節なんだよ。
ちゃっきり節は、静岡だろう?
あるんじゃないの?
栃木にだって、ご当地ソング。
餃子のマーチとか、レモン牛乳のタンゴとか・・・」

「ぼ、僕、北原白秋のファンなんです。
(『ちゃっきり節』北原白秋作詞/町田嘉章作曲)
・・って言うか、着信、誰からですか?
も、もしかして・・・」

「そうよ。
あんた、腰抜かしかけて文句言ってる場合じゃないわよ。
また、救いを求める電話かもしれないのよ。
きっと手掛かりになるはずよ。
誰から?早くディスプレイ読みなさいよ」

ちゃっきり節を奏で続けるケイタイを手に、
言い掛かりの無茶苦茶を言い続ける私に対して、
彼と妻は、意外にも極めて冷静沈着で、
その言動は理路整然としていた。
今ので私は、更に株を下げ、肩身を狭くすることとなり、
妻に指示されれるがままに着信のディスプレイの表示を
所在無さ気に読み上げた。

「む、武藤・・敬子さん?」

「あ、あの、この間、相談を受けた人です。
ね、猫が、飼ってた猫が、逃げちゃったって・・・」

「出た方が、いいわよ」

妻はキューセーシュの青年イヤミ君に目配せをしてから、
いつものように一歩もうごかないまま顎を杓って、
私にケイタイを彼に渡せという意思表示をした。

《つづく》




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 現代小説 お取り寄せ救世主

posted by maruzoh at 18:57| Comment(0) | ◆お取り寄せ救世主 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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